2023/06/13 『灯争大戦』のチームシールド

最後の戦いを目撃せよ/Be there when it ends

前置き

 近年身内で空前のMTGブームが来ており、その波に乗じてチームシールドをやってみようということで企画したので記録に残す。遊んだのは懐かしの『灯争大戦』。

 そもそもチームシールドを選択したのは、人口が増えてきたのでチーム戦ができるようになったのでやってみたいというのと、布教の一環として初心者のT氏に人に相談できるような環境でリミテッドに触れてもらおうという目的があったため。そのため、極力メカニズムがシンプルで、なおかつMTGの楽しさに触れてもらえるセット+それなりに遊んでいるプレイヤーが遊んでも楽しい+思い出補正+天野リリアナ欲しいを理由として『灯争大戦』を選択した。プレインズウォーカーは初心者が使うには少し難しいかとは思ったが、カードパワーが高いPWを使用する楽しさと、MTGのストーリーに触れるといううえで、キャラクターから入りやすいという点を取った。何より2チームに分かれて戦うチームシールドと『灯争大戦』の2陣営が戦うという構造の相関がよい。なんか値段は高かった気がするけど10より多い数字数えられないから知らない。

 (基本セットと『機械兵団の進軍』も候補にあったが、前者は古いセットでカードを覚えるのには向いておらず、『機械兵団の進軍』は多くのメカニズムが登場するのと、割と他プレイヤーがリミテッドを遊んでいるので今回は見送った。)

 余談だが一応T氏にMTG自体とリミテッドという遊び方自体に触れてもらうために前週に『JumpStart 2022』のプレイ会も企画して導入とした。(結果としてはその前にMTGAの『機械兵団の進軍』リミテッドにかなり好感触を覚えていたし、カード評価も初心者とは思えない呑み込みの早さをしていて、色々杞憂だった気がするが……)

時間の配分について

 普段は身内の間でなあなあの時間感でリミテッドをやっていたが、今回は、チーム全員が並列で実施するため、時間制限を導入した。具体的には、色決めから三つのデッキを作るまでのデッキ構築の時間を90分、1マッチあたりの時間を店舗大会より余裕を持たせて1時間とした。

 結果としてはデッキ構築の時間は思ったより余裕があり、試合の時間はかなりちょうどよかった。おそらく事前に方針を話し合っていたのがよかったと思う。

デッキ構築の方針について

 チームシールドには当日どんなデッキを作るかでかなり迷うのではないかという懸念があった。3人で意思決定をするということは、環境への評価や、方針の認識合わせが絶対に必要になる。前日まで当日チームを決めるつもりだったが、普通に事前にチームを決めておくべきだったというのが反省点の一つ。(今回はたまたま前日全員なぜか暇よりだったので何とかなったが……)

 というわけで、前日にチーム決めを実施。最終の意思決定を行うリーダーも併せて決めた。内訳は以下の通り。(☆はリーダー)

チーム1

 ・M氏☆(筋金入りのリミテッドプレイヤー。意志力の化身)
 ・私
 ・I氏(T氏より一足先に沼に落ちた人。仕事中よく《儚い存在》してるらしい)

チーム2

 ・K氏☆(I氏と同じタイミングで始めた新進気鋭のパウパープレイヤー。下の環境やってないにしてはこの人も多分使ってる金額やばい)
 ・F氏(身内で一番長くMTGを遊んでいる人。強敵だけど想像力が豊かすぎて時々変なデッキ作る)
 ・T氏(本日の主役。)

 

 作戦会議の内容は以下の通り。

  • 青のコモン・アンコモンが強いので、青は二人に分け、それ以外の色は3人でそれぞれ使う。
  • 青黒はアーキタイプとして強いので、かならずやる。
  • 青の二人目は第一候補が青赤、第二候補が青白。
    (青緑はマルチアンコモンがまあまあ強いが、積極的にいく理由がないので、候補から外した)
  • 二人目が青赤の場合、三人目は白緑。
  • 二人目が青白の場合、三人目が赤緑。
  • M氏はマゾ弱いデッキが好きなので一番微妙なデッキになりそうな青赤or青白、I氏は青を握ると蕁麻疹が出るので白緑or赤緑、残る陰キャ用の青黒を陰キャの私が握る

 個々のカード評価の話も少ししたが大体は以上の通り。結構青のカードをどう分けるかみたいな話をしたのはかなり効いていたと思う。(《タミヨウの天啓》とか《呪文持ちの奇魔》とか)

パック開封~デッキ構築

 というわけでついに念願の『灯争大戦』の開封へ。シールドはなんだかんだ言ってこの瞬間が一番楽しい。2パック剥ける数が少ないので6パックでやることも少し検討したが(中途半端に余るし)、これ以上剥くとかなりパワーが強くなりすぎてしまう気もしたので結果としては良かった気がする。

 結果としては想定通りかそれ以上のプールになったため、プランAへ。白のコモンが弱めなのが懸念材料だった白緑に《ファートリの猛竜》2枚に《団結の誓約》とボムレアの《世界を揺るがす者、ニッサ》があるのでかなり勝てるデッキにはなったと思う。

 青黒も《煌めく監視者》を筆頭に動員と除去を引けたので、予定通りにパワーカードを独占。(2マナのテンポを支える《無神経な放逐》とクロックを守る《ラゾテプの板金》を引けなかったのは若干不安ではあったが……)

 白緑がかなりいけそうだったので結果として青赤は3番目のデッキとして選択されることに。《都市侵略》が罠という話を前日にしていたので見切ってアグロよりになったっぽい。黒の除去が強かったのと動員ちゃんと取れていたのでそれ以外の飛行と青の除去は青赤に融通。それで出来上がったデッキが大体以下。(最後に撮ったものなので細かいところは初期と変わっている)

青赤
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青黒

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白緑

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対戦

 試合形式は相手チームと総当たり。戦績は個人で3-0。チームとしては5-4でいずれも勝ち越し。

1試合目:対青赤 2-0

 1本目は開幕ヤヤ本人と挨拶が飛んできて私諸共更地にされた上に、ライフ1まで削られたが、相手の無駄ヅモが続いている間に除去と飛行ゾンビ軍団クロック押し付けて勝ち。

 2本目は《燃え立つ預言者》にかなり暴れられそうになったが相手が《煌めく監視者》が付与する呪禁に気を取られてるうちに《オブ・ニクシリスの残虐》でクロック通して勝ち。普通にとっとと《燃え立つ預言者》処理しておくべきだった。

 

2試合目:白緑T青 2-1

 1本目はトリマリから3マナ使って《悪への引き渡し》で0枚を手札に加えるという失態を犯すが、ルーティングから除去と動員連打して勝ち。《永遠の終焉》最強。

 2本目は《ヴィトゥ=ガジーの目覚め》から《黒き剣のギデオン》出されて無茶苦茶されて負け。《灯の収穫》引けないとギデオンは無理。無理すぎてサイドで《裏切りの対価》をイン。強いかどうかは知らん。

 3本目はマナフラ気味だったがルーティングからクロック勝負と除去で勝利。《タミヨウの天啓》がなければ4連続土地引いて負けてた……。

 どうでもいいがこの辺から勝ち報告の時の味方(主にM氏)の歓声の勢いを聞いて、ひょっとして自分はいろんな意味で重いデッキを握っているのではないか? という疑念を抱くが見て見ぬふりをする。

 

3試合目:黒赤 2-1

 1本目は除去が引けない間に《波乱の悪魔》と《灯の収穫者》にめちゃくちゃされて死。この辺から疲れで意識が朦朧とし始める。

 2本目は相手がキーカード引けないうちに除去合戦に勝利して飛行ゾンビクロック押し付けてなんとか勝ち。《永遠の終焉》最強(2回目)。この時すでに横は終わっていてなんか次負けたら合計で負けだったらしいが、見て見ぬふりをして3本目へ。

 3本目はなんとか《波乱の悪魔》が出る前に《灯の収穫者》は処理できたが、《無頼な扇動者、ティボルト》と《波乱の悪魔》と《心火》でかなり削られる。しかも《呪文持ちの奇魔》で《永遠の終焉》を回収してまくる算段が、攻撃した挙句に除去られるという大ポカをやらかす。正直内容としてはもうここで負けている。さらに《ボーラスの城塞》が着地し、10点バーン死を目の前に突き付けられてやけくそに殴りたくなるが、致命的なミスで却って頭が冷え、とにかく耐えて相手の自滅待ち方針にする。そのままとにかく耐えていたらいつの間にか相手が全体除去を打った上にライフが2点になっていたので、相手が土地引いている間に《ラゾテプの肉裂き》→《永遠衆の天空王》を2連トップして飛行クロック通して勝ち。一応《はぐれ影魔道士、ダブリエル》トップでも常在能力で2点通して勝ちだった。あと1T遅かったら負けてたらしい。さすがに手が震えた。

 

 とまあ3-0はしているが内容としてはプレイがかなりひどく、おそらく私以外の誰が青黒を握っていても3-0はしただろう、というオチ。まあでも勝ったからいいや。

 

反省会

 とはいえ、某氏の「基本フルアタック」という格言を胸に、序盤からクロックを押し付ける意識を持てたのはかなり良かったと思う。これは失念していたが、体感『灯争大戦』の環境はサイズが小さいクリーチャーが多く、パワー2~3のクリーチャーを強化して殴る感じだったので、接死ゾンビで積極的に殴っていけたのが間接的に勝利につながっていたと思う。ライフが1でもあれば死んでいないが、ライフが1に近いほどワンチャン拾えるということがよく分かった。

 《蠍の侍臣》の接死がかなり機能していた反面、1点火力がきつすぎた。《ラゾテプの板金》があったらなんとかなっていたのか?

 あと明確なやらかしとしては《燃え立つ預言者》なめすぎていた。大体リミテッドのインスタントやソーサリーシナジーはうまくいかないのでせいぜい発動されても1回や2回だろと思っていたら、3回くらい除去飛んできて顔面が半分消し飛んだ。占術もついてるのがかなりやばそう(小並感)。これはMOMでの《格納庫のたかり屋》で学んだことだが、継続的にデッキを掘れるカード、アド自体は稼いでいなくても案外強く感じる。今回は某氏の勧めで投入した《突飛な幻想家》がいぶし銀な活躍をしていた。最後の1戦でトップ解決できたのもこのカードでデッキトップを墓地に送ったおかげです。(一応あの状況を解決できるカードと残りデッキ枚数的に送り得ではあったが、運ゲーではある)

 ギデオンは無理なので特に反省することないな……。

 あとこれは青黒というデッキの特徴によるところだが、1試合の時間が長く、時間的にかなりぎりぎりでほとんど他卓の様子を見ることができず、チームメイトのプレイに対しては何も還元できていないといっても過言ではない。チーム戦なのに色といい、色選択といい、実際のプレイとしてもかなり独善的なプレイをしてしまったのは反省。

 

チラシの裏

 今回は運よく全員が0-3を回避したし、結果としてかなりよいプレイ体験となったようでよかった。T氏の感触もよかったので企画としてはかなり成功した部類だと思う。最初はR数取得で勝負を決めるつもりだったが、個人成績の合計勝負だと今回みたいなときに最後までスリルがあってよいなと思った。結果として最後勝敗を握る立場に立ったうえにプレミをやらかしたが、全然負けてもてへぺろで済ませるつもりではあった。こんな感じで済ませられない人だと、チームシールドで不愉快な経験をしてしまうかもなとは思った。MTGへたくそすぎるのでこういうのやるとかなり練習しなきゃなという気持ちになる。

 実際、チームシールドはかなりパワーとスリルがあって、通常のシールドより楽しく感じた。《オブ・ニクシリスの残虐》2枚に《灯の収穫》2枚は他のリミテッドだとなかなか取れない。開始前とか構築時にチームで作るデッキについてあーだこーだいうのも楽しい。微妙なパワーバランスもあってプレイヤーが大人である必要があるとは思ったが、今回はかなりうまくはまっていたと思う。たまたま今回私が3-0する席に座っていたが、チームメイトがそれぞれ取っている1勝がなければ普通に負けているので、1勝の価値がめちゃくちゃ重いのも新鮮でいい。とりあえずチームメイトと私にワンチャンくれた《ボーラスの城塞》に感謝。

 正直、値段的に『灯争大戦』にするかはかなり迷ったが、かなり実際に剥いてみて最後までかなり楽しめたので良かった。PWの実用性レベルがちょうどよく単純に使っていて幸福感があったし、当時を知らないT氏とI氏にあの頃を代表するぶっ壊れPWを使ってもらえたのがよかった。正直剥きたいけど我慢して残りのパックは多分買い足してドラフトする。天野リリアナ当てて寿司食いてえ。

 会議室はかなり内装よかったけど新大久保はやっぱ人多くて疲れる。サムギョプサルはかたい肉食べたいという欲求が満たせてかなりおいしかったが、食べ過ぎて帰りにおなかを壊しました。当分節制します。

 来月予定入りすぎててもう何が何だかわからない。口頭でしかやり取りしていないので誰か文字に起こしてほしい。

 変容はそろそろギブかも。深夜のノリでデッキを作っては続唱ランプに破壊されている……。MTG部、今後ともよろしくお願いします。

2022/11/20『Unfinity』のドラフト会

重力ゼロ。笑いは無限。 /Zero Gravity. Infinite Laughs.

概要

 『Unfinity』は宇宙とテーマパークをコンセプトとしたMagic the Gatheringのセット。先日某F氏の好意でドラフトを遊ばせていただいたので、たまには記録として残す。青黒アトラクションで挑んで戦績は2-2。具体的には以下の通り。

1試合目:対青白 2-1

 1本目と3本目で《Soul Swindler》並べて殴って勝ち。飛行持ちをうまく《Wolf in ___ Clothing》で除去できたのが多分よかった。

2試合目:対赤緑 2-0

 《Storybook Ride》と《Log Flume》がぶん回って勝ち。

3試合目:対白緑? 1-2

 この試合記憶が怪しい。飛行が一生止まらなくてクロック負けしたことだけは覚えている。

4試合目:赤白青 0-2

 2戦ともマナフラッドの上にアグロで叩き潰された。もっと強気にマリガンすべきだったかも。正味スタッツサイズ差が響いてたと思う。

 

 ちなみに『Unfinity』のドラフトアーキタイプは以下らしい。

テーマ
白青 名前ステッカー
白黒 帽子
青黒 サイコロ操作(アトラクションと相性良し)
青赤 アート・ステッカー
黒赤 サイコロの高い出目(アトラクションと相性良し)
黒緑 大量のアトラクション観覧
赤緑 1ターンに複数個のサイコロ(アトラクションと相性良し)
赤白 道化師ロボットアグロ
緑白 能力・ステッカー
緑青 パワー/タフネス・ステッカー

デッキリスト

 サイドデッキは省略。

クリーチャー(18)

呪文(5)

土地(17)

  • 沼/Swamp *10
  • 島/Island *7

アトラクション(6)

 

反省会

 最初は黒が薄めに見えたが、《Soul Swindler》が回ってきたのとボムレアの《Storybook Ride》をピックできたので、アトラクションに進む。そもそもドラフトで2アクションないと効果を発揮できないメカニズムは弱いと前回聞いた気がしたが好奇心に負けた。一応アトラクションをOpenするカードとVisitすることによってアドバンテージを得られるカードが両方あれば戦えると前回聞いた気がしていて、《Soul Swindler》と《Discourtesy Clerk》《Quick Fixer》をピック出来たのでコンボとしては機能はしていた。ただ冷静になると自ターンのみ破壊不能はそんなに強くない。結局黒は一人しかいなかった(多分)が、かなりカットされてそうではあった。

 もう一色は《Dee Kay, Finder of the Lost》とレアの呪文をピックした青を選択。思えばまずこれが一つ目のミスだった。今リストを見返して青でなければならない理由が皆無。そもそも青黒のアーキタイプはダイスで、アトラクションの大量展開は黒緑だった。(実際アンコモンの黒緑が回っていて迷った気がする)。緑はかなり食い合いが激しかったので黒緑に進んでいてもまともにデッキになったかは謎。ただ色として明らかに緑が強そう。

 ほぼ確定でボードアドバンテージを得られるチケットカウンターメカニズムに対して、アトラクションは不安定すぎた。最初からうすうすわかっていたが、Openしてから効果を発揮するのが次ターンなのと、最高でも毎ターン1/2の確率でしか発動しないのはドラフトだと遅すぎる。ボードアドバンテージが取れない。安定させるためのダイス目を操作する能力は明らかに何も生みだしてないためドラフト向きではない。でも結局誘惑に負けてアトラクション軸にしてしまった。アトラクションをめくる⇒サイコロを振る⇒カードを引くとかいうメカニズムプレイしていて楽しすぎる。

 《Storybook Ride》のためにできる限り多くのアトラクションを積んだのだが、これが、2つ目のミス。冷静に考えると《Storybook Ride》でめくれるトップが1枚でも十分強い。それより《Storybook Ride》自体がめくられる確率を高めた方が絶対強かった。3そもそもアトラクションをピックするという行為がメインデッキを弱くしているし、ボムレアをピック出来ているなら明らかに3枚のみの採用でよかった。

 《Log Flume》は思っていたより威迫との相性が抜群によく、黒は威迫持ちが多く存在していたため、もっと《Log Flume》+威迫持ちウィニーのビートダウンで勝つプランに寄せていればもう一勝くらいは拾えていたかも。正直《Log Flume》のテキスト最初は意味が分からなかった。 jump in a log とは。

 最後の敗因としてシンプルに生物のサイズが足りていなかった。システムクリーチャーの常として、マナコストに対して一回りスタッツが小さいものが多く、普通のビートダウンにめちゃくちゃ弱かった。アトラクションのバフでそこらへん補えるかと思ったら全然そんなことなかった。セットのデザインとして生物のサイズはステッカーが補っている気がするので、色選択でそこらへんを取り込めてたらもっとよかった。セラの天使がマジで無理。

チラシの裏

 相変わらず先のことを考えなさすぎるのでドラフトが下手。コンバットは一生わからない。個人的にアン・シリーズには肯定的な感情を抱いていなかったが、『Unfinity』はよくできたセットだった。ステッカーが使い捨てなのは置いておいて、普通に完成度高いと思う。どのメカニズムもプレイしていて面白い。アートワークもさすがによい。白黒ショックランドのSF小説の表紙感めちゃくちゃ好き。商法としてはアレだが……。

 毎回好意で遊ばせてもらえるF氏には感謝しかない。この場を借りて謝辞。

System Era Softworks『ASTRONEER』

store.steampowered.com

概要

 宇宙探検系サンドボックス&クラフトゲーム。動物が存在しない亜太陽系みたいな惑星群(一部衛星かも)をてくてく散歩しつつ、エレメンタルな素材集めに勤しむゲーム。結構やったことないタイプのゲームではあった。地形は自由に削ったり盛ったりできるが、本当に削ったり盛ったりできるだけなので、建築とかハウジングという感じではない。その分クラフト系はかなり充実している。

 宇宙ということで、ゲームの根幹に酸素と電力のリソース管理がある。資源を集め、酸素と電力リソースを拡大、探索範囲を広げ、まだ見ぬ素材を求めて別の惑星へ……というのがゲームの攻略ライン。

 開始時に展開されるシェルターから酸素と少量の電力は供給されるが、範囲制限が存在している。この効果範囲外に出ると、段々持ち運べる酸素量が減っていき、窒息する。なのでこの供給ラインを拡張できるテザーを配置しながら惑星を探索していくことになる。テザーは明かりにもなるし、この手のゲームでありがちな探索しているうちにどこから来たかわからなくなったということが少なくなるので、結構面白い。感覚としてはほぼマイクラの松明。ただ実際にはゲームの特徴としてクラフト可能な移動手段は酸素を供給する(超技術)という性質を共通して持っており、後半はそれほど酸素は問題ではなくなる。

 つまりゲームとしてはいかに電力を確保するか、こちらに焦点が置かれている。電力は各種施設の安定稼働に必要なほか、ゲームの目的である各惑星の謎の建造物を起動するために必要となる。風力、太陽光、火力のうち、どの惑星においてどの発電方法を選ぶか、また、そのための資源をどのように持ち運ぶかがゲームの根幹といえる。ちなみにおそらく効率を求めると大型ローバーに火力を積んでごり押しすることになる。また、最終的には核熱発電的な無から電力を生み出す装置も作れるようになるが、こちらはややオーバースペック。長く遊ぶならおそらく必須。

 移動手段もかなり特徴的で、陸地移動用のバギーやローバーだけでなく、惑星間移動用のシャトルや、個人移動用のホバーボードなど、結構力を入れて作られている。特に惑星間移動はゲームの醍醐味で、特定の惑星でしか手に入らない資源を求めて、プレイヤーは割と早い段階からほかの惑星に行くことになる。新天地に何を持っていくか、そこでどのように拡張していくかなど、クラフト系最初の一番面白い時間を複数回味わえるというのはこのゲームの大きな魅力。惑星ごとに違った景色を見れるのもよい。

 最後にこのゲームに敵対的NPCは存在しない代わりに、危険植物が存在しており、大体踏むと死ぬ。のどかで自然的な光景を静かに探索できるが、スリルがないというわけではない。そんな感じ。

 総評して、クラフトの面白さというよりは探索の面白さに重きを置いた作品で、激しい興奮とかは存在しないが、謎に面白くて長時間やってしまう系のゲーム。謎の建造物やアーティファクトなど、正体が気になるところもあり、割とお気に入りのゲームだった。

チラシの裏

 大型ローバーにドリルと舗装機とつけたのが最強。これがないとまともに乗り物で探索できない。収納容量的には大型サイロがぶっ壊れていて、これだけ積載量の増加具合がおかしい。これと中型サイロだけあれば運搬には基本困らなくなる。ただローバーに設置するとカメラが塞がりめちゃくちゃに酔う。個人の移動はホバーボードが高速でとても快適だが、落下ダメがあるので自分はジェットと併用した。VTOLは地形無視とはいえ開放が大変な割に移動が遅すぎる。あまり乗り物を併用する必要は感じなかった。

 中型(2スロット)以上の設備はプラットフォームを別途作成して設置しないと使用不可というルールがあり、これが結構面白い。プラットフォームの形によって設備がどのような配置になるかが決まったり、同一プラットフォーム間は勝手に資源が移動してくれるので、使いやすいように工夫する面白さがある。逆にこれがある分自動化の必要性は薄かったかも。

 必要最低限の資源はいずれの惑星でも手に入ったり、削った土砂から資源を生成する最強設備があったりなど、詰み防止はかなり気が配られていて、割とカジュアルに遊べるし、効率も目指せるのは好印象。拡張ラインみたいなのをゲームとしてかなり丁寧に設計されている印象があった。ただ最初から全惑星いけるのと、コアに必要な資源だけ別でその他の攻略方法がほぼ同じなので、自分は後半を消化試合にしてしまった。

 カメラはかなり終わっている。揺れが激しい系というよりは、コンシューマゲームっぽい視点移動のしにくさだった。時々カーソルがいうことを聞かなくなり視界が壁で埋め尽くされ、自分はげろを吐き、世界が終わる。コントローラ前提のゲームにはありがちだが、キーバインドもかなり独特。特にコンパスとミッションとスキルツリーが同じキーかつ消すのがめんどくさくて操作性が終わっていた。

 一回マルチで遊んだ後なんだかんだで42時間ソロで遊んでエンディング。全ミッションクリアまではやろうかと思っていたがミッションアイテムを失くして萎えた。このゲーム、植物の種以外はアイテムが消えないので補填がなく、逆に落とした時一生砂漠のどこかに針が落ちているのを探す羽目になる。目印がなさすぎる。雰囲気あって結構没入感があったので良かったと思いました。こういうゲーム好き。多分自分は仕事するのが好きなんだと思う。

 どうでもいいけど久しぶりに自分が書いた文を読み返すと結構精神的にくるものがある。ほぼ自傷行為。やってるときはアドレナリンが出ているからいいが、あとで後悔する。菌が入ったらより悲惨だ。そもそもゲームをクリアするという行為自体がだいぶ久しぶりなのがかなり終わっている。文化的に最低限度。

Jamey Stegmaier 『サイズ:大鎌戦役 (SCYTHE)』②勝利条件・ゲーム目標

勝利条件・点数計算

 前回の続き。今回は点数計算周りのリソースと星章(勝利目標)について書く。

hotsnow36.hatenablog.com

 「サイズ」というゲームは勝利条件とゲームの終了条件が同一ではない。終了条件は「いずれかのプレイヤーが星章を6個獲得すること」だが、実際の勝敗は星章を含む複数の要素をもとに点数計算を行い、改めて決定される。具体的には、「獲得星章の数」「終了時点の支配区域の数」「保有資源の数(2個ごとに)」「建造物ボーナス」「保有資金」の5要素が加味される。また、それらによって得られる点数の倍率は、保有している民心の程度によって3段階に決定される。同点の場合を除きその他のリソースは一切勝敗に関わらない。

 そのため星を6個獲得したプレイヤーが必ずしも勝つとは限らないが、星章>区域>資源の数という価値設定がされており、なおかつゲームを終了させたプレイヤーが最後にアクションを行ったプレイヤーになるため、概ね星6個獲得したプレイヤーが有利なことは変わりない。

 ただし、民心レベルに差異が存在する場合にはその限りではない。民心レベルが1あがると、前者三つのリソースそれぞれの価値が、1上がる。例えば、星章6個で民心レベル1の場合は3*6=18点となるが、星章5個で民心レベル2の場合は4*5=20点となり、後者が優位である。そのため、民心レベルが他のプレイヤーより低く、かつ星章の差異が小さい場合は、必ずしもゲームを終わらせたプレイヤーが勝つとは限らない。支配区域でも差がつくことを考えると、民心が低い場合は最低でも星章・区域に2~3の優位がある状態で終わらせたい。

 目的カードを除き各プレイヤーは共通の目標が設定されているため、大抵の場合、星章の数で大きな差異を付けることは難しい(周りが上手くなればなるほどそうなる)。よって、プレイヤーは星章によってゲームを終わらせることとは別に、星章以外の部分に差異をつけることによって勝利を目指すべきである。これはあくまで現時点での私の考えに過ぎないが、支配区域の数と保有資金の二つの差異によって「サイズ」の勝敗は決まる。

  支配区域の数について。これが強力な理由は、「移動」というアクションの強さに直結している。プレイヤーが1アクションで増やせる支配区域の数の最大は、3区域とカウントされるファクトリー抜きで6区域である。もちろんこれは後のラウンドで取り返されることも理想の移動ができないことも考慮していない値で、現実には難しい値であるが、それでも星章の獲得の難易度を考えれば驚異的な数値である。

 支配区域の数の増やしやすさは、「ユニットの数」「移動の自由度」によって決定される。つまり、より多いユニットを盤上に配置し、極力薄く広く移動させることによって、支配区域をより多く得ることができる。

 ただし、この行為には三つのデメリットがある。一つ目、最も生み出しやすいワーカーは増やすほど「生産」のコストが上がる。二つ目、ワーカーを広げる行為は、「生産」アクションによる生産性を極度に下げる。三つ目、戦闘ユニットが広がっている状態は、他プレイヤーにとって最も攻めやすい(星章を獲得し、支配区域を奪い返しやすい)状態である。

 前者二つはようするに「生産」というアクションをしなければいいので、必要な資源を出してしまった後ならば問題ない。あと一つが問題である。よって攻められる危険性のない最終手番は、もっとも支配区域を獲得しやすい手番という点で最強の手番であり、これが星6個獲得するプレイヤーに与えられた最大の特権である。(必ずしも「移動」でゲームを終わらせられるとは限らないが)

 保有資金について。資金による点数は差がつかないようで案外差がつく。民心や移動などの不確定要素に左右されにくいため、安定して着実に点数を伸ばす上で重要である。このゲームにおける資金の獲得方法は以下の手段のいずれかによる。

・初期資金

・「移動/獲得」アクション

・下段アクション

・ファクトリーカード

・遭遇カード

・「徴兵」アクションの取得時・継続ボーナス

・プレイヤー間の交渉

 初期資金と「獲得」アクションについては基本語るだけ無駄なので割愛。下段アクションは「①概要・アクション」で述べた通り、最大値が決まっており、獲得量はどれほど効率的に下段を行なったかによって決まる。資金を生み出すファクトリカードは国家を問わず強い。特に下段が完了した後半は移動以外にやることがなくなりがちなため、選択肢にあるとないとでは大きな差がつく。当然ロングゲームにおいても強力。遭遇カードの資金獲得は意外とバカにできない。戦闘星章を2つとった後、「移動」アクションで点数を伸ばすための選択肢として有力。「徴兵」はおそらく最も差がついてしまう部分。「徴兵」が0金アクションのボードだとしても、一回だけ行って「展開」の新兵を2金に動かすのが強い。1アクションが生み出す点数量としてはかなり犯罪的(ただし必ずしも周りがメック全台出すとは限らない)。実はプレイヤー間の交渉材料として得ることもできるが、口約束を守る理由が一つもないため、個人的には使ったことがない。

 これは受け売りだが、資金を20前後まで稼ぐことができれば大体のゲームで高順位を狙える。これは消費さえ抑えればそう難しくない。案外「交易」の回数で決まっている気もする。

 余談だが、目的カードの「資金20以上保持していること」は強すぎると思う。ただ勝利を目指して下段を実行していれば達成できる上に、一度達成してしまえば好きなタイミングで表にできる。「資金n金以下で〜」みたいなカードはカス。達成したら実質負け。

 資源について。民心レベルが2以上なら、2個で2点と得点効率は悪くない。ワーカー5人の状態で「生産」を2回打てば10点獲得していることになる。にも関わらず資源勝ちを中々みないのは、「サイズ」特有の生み出した資源がプレイヤーの手元ではなく区域に置かれるという性質による。早い話が、資源を貯めれば貯めるほど奪われる危険性が高まる。よってとにかく多くの資源を出すよりは、使う分だけの資源を出して即使用し、手番を圧縮する立ち回りの方が安定する。また、生産のためにワーカーを固める動きは、支配区域による点数獲得に対してマイナスに働く。というわけで私は原則として資源を余らせないようにしている。とはいえ、奪われないような場所で生産する立ち回りも可能であるため、十分に検討可能な戦術であるとは思っている。特に「生産」相当の上段を行うファクトリカードを使い、ワーカー8人のコストを踏み倒して資源を大量入手する戦術には可能性を感じている。

 最後に建造物ボーナスについて。残念ながら「サイズ」は陣取りゲームの要素もあり、複数の狙った場所に建造物を立てるのは難しい。概ねはないよりはマシになると思われる。一応プレイヤーが少なければ少ないほど達成難易度が下がる。

 以上が「サイズ」の得点を伸ばす際に考慮している内容である。実際はゲーム終了時に他プレイヤーより1点でも勝っていればよく、最大得点よりもスピードを優先すべき局面は往々にして存在する。つまりいかに星章を取るかである。星章については次章で述べる。

星章

 「サイズ」のゲーム目標は以下の10種である。

・改良6回

・建設4回

・展開4回

・徴兵4回

・ワーカー8人

・戦闘勝利(1回目)

・戦闘勝利(2回目)

・目的達成

・戦力16

・民心18

 以上のうち6種をいずれかのプレイヤーが達成した時点でゲームは終了する。それよりも多く獲得してさらに差を広げることはできない。故にどの目標を達成するか、それをどれくらい短い手番で6個達成できるかが重要になる。

 星章の達成難易度には露骨に差がある。当然簡単なほど速い。あくまで私見にすぎず、ゲームによってある程度変わるが、ワーカー≧戦闘1回目>展開=徴兵≧建設>改良>戦闘2回目≧戦力>>民心?????目的達成あたりで捉えている。ワーカーは最速生産3回で確実に可能なこと、戦闘1回目は攻める側が有利なゲームであることを理由に高く評価している。下段アクション系は未改良の「生産」が2区域指定のため、3つ目以降難易度が上がる。戦闘2回目は、確実に勝てる戦闘のみを仕掛けると仮定した場合である。実際は他プレイヤーの戦力やユニットの配置の仕方によるため、一概に評価はしにくい。上段アクションで獲得できる値と最大値に差があるため、民心最大は戦力最大より遥かに難しい。目的カードは内容によって差がありすぎる。このゲームで一番勝敗に運が絡む部分である。

 ゲーム中盤で何をやれば良いのかわからなくなり無駄な手番を使わないよう、各ゲームで自分が獲得する星章がどれかは初めにある程度決めておいた方が良い。その際にはゲーム開始時に最も不確定な要素である、戦闘星章の獲得数について、0、1、2それぞれの場合を考えておくと良い。

 まず0個の場合。達成する6個は「ワーカー・目的・建設or改良・展開・徴兵・戦力」といった感じになる。まず下段三つの完遂に時間がかかる上に、目的カードでハズレを引いた際の代わりが下段全部完遂か、民心18というかなり苦しい状況になる。いずれにしても他の戦闘勝利を得たプレイヤーの速度に勝てるとは思えない。よって極一部の場合を除き、一回は戦闘勝利を目指すべきである。

 1個の場合。「ワーカー・目的・戦闘勝利・展開・徴兵・戦力」といった感じになると思われる。目的の達成がきつい場合、最後の一個がやや苦しいが、まだ下段4つよりは3つの方が現実的である。戦力と戦闘勝利の両立は難しいように見えて、戦力16になったのちに戦闘で有り余る戦力を使ってゲームを終わらせればよいので、見た目より難しくはない。

 2個の場合。「ワーカー・目的・戦闘勝利・戦闘勝利・展開・徴兵」といった感じになる。2回戦闘を行う分戦力最大は達成しづらくなるが、その分必要な戦力は少なくなる。戦闘勝利が移動1手番で獲得可能な星章である以上、最も速い勝利方法とも言える。また戦闘勝利はうまくやれば1回の移動で二つ獲得することが可能なため、逆転勝利にも向いている。ただし、必ずしも戦闘勝利のしやすさはゲームによって大きく変わるため、毎ゲームで2つ戦闘勝利を取れることを前提としない方が良い。下手にこだわるよりは別の星章を目指した方がが近道のこともある。

 なお以上の内容は星章のルール自体に能力が及ぶザクセン帝国には適用されない。具体的にいえば戦闘3つと戦闘4つの場合が追加される。これにより他国とは完全にかけはなれた星章獲得プランが可能となっている(勝てるとは言っていない)。

 最後に考えるべきは取得する星章の順番である。これについては明らかに「移動」もしくは「移動」の下段アクションで最後の星を取るように動くのが良い。「移動」で支配区域を一方的に増やしつつ、相手に支配区域を増やす機会を与えないからだ。上記の条件を満たすことが可能なのは、下段と遭遇による星章獲得を除いて「戦闘勝利」「目的」のどちらかである。よってこれらはできる限り後に残しておいた方が良い。

 他にも星章に関してはワーカー8人と戦力16の相性が悪いだとか、ポーラニアは民心18を達成しやすいだとかあるのだが、キリがない上体感なので割愛。

 全体として総括するとこのゲームとにかく「移動」が重要である。そしてそれを難しくする一番の要素が戦闘なのだが、これもまた複雑である。そして戦闘を語るためにはまずメックの話をしなければならない。というわけで次は多分国家の能力について書けることがあればいいと思いましたまる

Jamey Stegmaier 『サイズ:大鎌戦役 (SCYTHE)』①概要・アクション

「サイズ」は1920年代のもうひとつの世界の舞台にした、重量級4X(探検・拡大・開発・破壊)ゲームである。
そこは農業と戦争の時代、そして傷ついた心と古びた兵器、発明と勇気の時代であった。

欧州に積もる雪は人類最初の世界大戦の灰で黒ずんでいた。
かの大戦に重装甲兵器《メック》を送り込んだ「ファクトリー」と呼ばれる大都市国家はその門戸を閉ざし、近隣国家に注視されていた。
戦場へと赴く五カ国のうち、自分の帝国を東欧の支配者にまで成長させ、富と名声を得るのは誰か?

概要

 人生で一番好きなボードゲームは何かと聞かれれば、今のところはおそらく「サイズ」と答える。私にとってはそういうゲームである。初めて遊ばせてもらった時の興奮は忘れられない。巨大なマップに、自らのメックを展開し、動かしていく楽しさ、優れたアートワーク、凝った設定など、このゲームには重量級ボードゲームしか持たない喜びが詰め込まれている。

 去年初任給で拡張の2国と共に購入し、狂ったように毎週遊び、基本5国家での勝率が安定してきた気がするので、ゲームについて考えたことを残しておく。(ボドゲ界隈は本当に頭のいい人が多く、私のような粗忽者が書いたものに価値などないのだが、忘れてしまうのも勿体ない気がしたため、備忘録程度に残しておく) 

 「サイズ」とはどのようなゲームか。プレイヤーは、自分の国の代表である「キャラクター」とともに、「ゲーム目標の達成」「支配領土の拡大」「資源・資金の獲得」によって、ゲーム終了時に最も強大な国となることを目指す。そのためには、ただ他国に攻め入るための軍事力を獲得するだけではなく、拡大生産を行ってより強力な能力を開放していく必要がある。タイトルである鎌は、武器でもあり、収穫の道具でもあるといった点でこのゲームを象徴している。まずこの戦争と生産の駆け引きが面白い。

 多分こんな意味不明な説明よりもインスト動画を見たほうが早い。


www.youtube.com

 このゲームが特に秀逸な点はもう一つある。各プレイヤーが各ラウンドで行えるアクションは、アクションマットに記載されている、4つのアクションに限られる。それぞれ上段のアクションと下段のアクションに分かれており、その組み合わせはボードによって異なるが、種類としては4+4の8種類の行動に限定されている。そのためこのゲームは非常に複雑に見えて、やること自体は4つのエリアのうちの一つを選ぶという風に、単純化されている。(もちろん、そのアクションによって実際に何を行うかは考える必要があるが。)これには、複雑なゲームの中で、次に何をすればよいのかをプレイヤーが考えやすくすること、各プレイヤーの選択肢を可能な限り平等にしながら、ゲームごとに違ったプレイ体験を与えるといった二つの効用がある(気がする)。

 とにかく、このゲームは百回説明を聞くより一度触ってみたほうが早い(じゃあ何のために長々と小難しいセリフを並べたんだ?)。移動の複雑すぎるルールを除き、プレイ自体は重量級ゲームにしては驚くほどスムーズにできることに気が付くはずである。

 なお値段は一万円越えでサイズ(激うまギャグ)は馬鹿でかいと物理的には全然遊びやすくないが、ありがたいことに2000円(お値段なんと1/5!)でSteamで電子版が発売されている。チュートリアルまであり、初心者にもお勧めできる内容となっている。欠点といえばNPCがあまり強くないくらいだ。勝てるようになってきたくらいで人と遊べばより楽しめる。

 

アクションについて 

 閑話休題。ここから先はやったことないと意味不明な内容。このゲームの中核を成すアクションには、おそらく強弱がある。もちろん各行動によって得られるリソースは原則として排他で、ゲームとして不要なアクションは存在しない。

 しかし「サイズ」のアクションには二つの強弱があると私は考えている。

 一つは、ゲームとして設定されている、下段アクションによる獲得金額の大小だ。すべてのアクションボードにおいて、上段アクションは同一であるが、下段アクションはコスト・獲得金額が異なる。下段アクションはいずれもゲーム目標(星章)に直結しているが、1金=1点となるルール上、当然より多く金を獲得できるアクションが圧倒的に強い。3金もらえるアクションを4回やるのと、0金のアクションを4回やるのとでは12点も差がつく。これにはプレイヤーが目指すべき目標をゲームごと(=アクションボード)ごとに変化させ、ゲームプレイを単一化させない狙いがあると思われる。よってプレイヤーはまず、3金・2金獲得できる下段アクションをいかに効率的に行って星章を獲得するかを考えるべきである。このゲームは誰か一人が星章を6個獲得した時点で終了する、競争のゲームでもある。残念ながら1ゲームで実行できる下段アクションの回数は限定されている。ちなみに、拡張ボードとバランス型の機械主義を除き、3金獲得できるアクションは資源を生み出さない「増強」の下段となっている。

 二つ目は、純粋なアクションとしての強弱。各アクションでやることの種類が違いすぎるため、均一でないのは当たり前だが。まず下段アクションはいずれも最大回数まで行うことで、星章を獲得できるのだが、その最大回数が異なる。「展開」「建設」「徴兵」が4回で星章獲得できるのに対し、「改良」は6回必要となる。1ラウンドで行える下段アクションは1つであり、同じアクションは連続で選べないというルールから、より手番がかかる「改良」は星章獲得には不向きという点でほかのアクションに劣る。(ただし、他のアクションが4回しか行えないのに対し、「改良」は6回行えるとも考えることができる。これは下段アクションによる資金獲得を考えたとき、有利に働く。「展開」3金「改良」0金のボードが下段で獲得できる資金の最大は24金だが、「改良」が3金のボードが下段で獲得できる資金の最大は30金である。ロングゲームでは有利に働く、かもしれない……)また、「建設」は、他のアクションに比べ「ワーカーが存在していて、施設がない場所に置かなければならない(同じ場所に2回おけない)」という点で不利である。「建設」だけ最大数行うためには資源を生み出すアクションとは排他の「移動」アクションを強制されるからだ。

 とりあえず下段としては「展開」「徴兵」が強く、これが3金・2金のボードが最強ということになる(本当か?)。ルール上ボードはランダムで配布されるため、あまりに気にしてもしょうがない部分であるが、下段アクションの優劣は行動方針として頭に入れておいて損はないはずである。個人的には上記の優劣は、獲得金額の大小>>「展開」「徴兵」の強さと捉えている。資金が弱いアクションはファクトリーカードで補えばいいが、アクションの資金は補いようがない。1金=1点はあまりにも重すぎるし、このゲームは下段アクション以外に案外資金の獲得手段が少ない。資金をファクトリーカードで補う手もあるが、通常の下段が星を生み出すのに対し、ファクトリカードは戦闘星章しか生み出さない。資金を生み出せるファクトリーカードは打った回数にかかわらずどんな国にとっても基本強く、人気である。(あくまで下段による資金獲得の代替にはならないだけである)

 最後に、各アクションについてメモ書きを残す。()は改良スロットを指す。

上段アクション

交易

コスト:1金

獲得:任意の資源2つ→ワーカーのいるマスor民心1(+1)

 序盤のスタートダッシュや自国で生産しにくい資源が必要な際に行うアクション。1点を支払っている以上、決して好んで打ちたいアクションではないが、下段を効率よく行うためには必須の上段アクションでもある。特に、初手生産で出した資源1と同じ資源を2つ出して、資源コスト3の下段アクションを2ターン目か3ターン目に打つ動きが強い。また、下段を資源コスト2まで改良すれば1手番で上段と下段が完結する。下段が0金or1金アクションが多いのが玉に瑕。民心獲得は最終手段。

生産

コスト:ワーカーの数により変動(4人以上:1戦力/6人以上:1戦力,1民心/8人:1戦力1民心1金)

獲得:2(+1)区域指定→[存在するワーカー]個の資源

 おおむね最強の上段アクション。「サイズ」というゲームの中核。中盤の優位はいかにこのアクションを効率よく行ったかで決定する。大体生産の下段は行うべき。生産→その他→生産→その他で下段アクションのループを組めると強い。ただし、生産の下段が終わるころにはほぼ全ての生産が終わっているべきである(原則として、下段の存在しない上段アクションは弱い)。

 特徴としては、2区域指定であること。つまり生産アクションを行う間、ワーカーは2区域のみに固まっている方が強い。(そしてこれが3金と2金のアクションを優先して行うべきと主張する理由である)。

 ワーカーの増やし方は最初1人を村に移動させ、2回の生産で2→3→5と増やすのが移動の回数的にもコスト的にも合理的(場合によって3で止めてもよいが)。

 また、唯一他者への干渉なしに確実に星章を獲得できる上段アクションでもある(ワーカー8人)。5→8と増やすと戦力1のコストで最大まで増やせるので多分強い。これが生産を下段打ち切った後だらだら続けるべきでないと主張する理由。ワーカー8人の状態は「生産」アクションがゴミになることを除けば非常に強いと思う。

増強

コスト:1金

獲得:戦力2(+1)or戦闘カード1(+1)

 資源を生み出さないのであまり打ちたくはないが、下段が強かったりそもそも戦闘のために戦力が必要だったりで打つ必要はあるアクション。このアクションの下段を行うかどうかで自国の戦力の平均値が決まる。戦闘したい国家でこの下段が弱いとかなりげんなりする。「徴兵」のカード獲得能力があまりにも高いため獲得も「改良」対象も戦力優先の印象。実際2と3ではかなり差が出るので、「改良」の時は「移動」とならんで最優先にしている。直接点数には寄与しないが、戦力の維持は実はかなり重要な気がする……。

移動/獲得

コスト:なし

獲得:2(+1)ユニット1マス移動or1(+1)金

 最弱にして最強にして「サイズ」で最も難しいアクション、それが移動。難しすぎていまだに何もわからない。なぜ最弱かというとこのアクション単体は何の価値も生み出さないから。後続の戦闘、遭遇、「生産」、「建設」、「目標カード達成」、領土保持(ゲーム終了時)につなげて初めて得点になる。逆に言えば上記をやらないときには一切やりたくない。手数を減らすうえで最も合理化の必要があるアクションである。同時に、後続の上記につなげることで1手番で獲得できる点数が最も多い最強のアクションでもある。特にワーカーを移動の途中で下すことができるため、区域拡大による点数獲得能力が異常。「移動」によって6個目の星章を獲得するのがこのゲーム最強の終わらせ方である。(まず6個獲得するのが難しいというのはご愛敬。6個獲得した人間の最大のアドバンテージがこれである)

 以上は理想的な動きのみを考えた場合の話。問題は相手も同様に動き、戦闘をしかけてくることにある。この駆け引きが限定されたアクションの繰り返しでありながら、「サイズ」に無限の深さを与えている。移動を制する者はサイズを制するといっても過言ではない。

 獲得はまあ長引いて本当にやることなくなったら使えるかもしれない(使えるとは言っていない)。ただこのアクションが存在すること自体には重要な意味があり、上段アクションのコストが完全に支払えなくなったときに詰まないようになっている。こういうことに気を払える設計者になりたい。

 

下段アクション

展開

コスト:鉄1~4個

獲得:メック1台→ワーカーのいるマス、0~3金

 「サイズ」の花形、それがメックを生み出す「展開」である。下段アクションはいずれも一つのアクションで二つの効用を生み出す。「展開」が生み出す効用はメックユニットの配置と、メック能力の解放である。後者は国固有の面がかなり大きいが、「渡河orテレポート」「移動強化」あたりは共通してゲームを大きく進める能力である。というかこれがないと始まらない。そしてメックユニット自体も強力。まず戦闘ができるユニットは原則として多ければ多いほど良い(というかユニットはすべて多い方がいいが)。そしてワーカーを乗せて移動できる能力は、生産の合理化・手番の圧縮に大きく貢献する。正直「サイズ」はメックを出して遊ぶゲームといいたくなってしまう。しかし前述した通り0金の場合は弱いので何台出すかは財布と相談になる。個人的には2台は必須、残りはファクトリーカードで出せたら出すようにしている。実際出さなくても勝てはすると思う。

 ちなみにデザインは国ごとにユニークですごく良い。これ「展開!」って言って出して動かしてるだけで楽しい。

徴兵

コスト:食糧1~4個

獲得:徴兵1回(新兵1人)、0~3金

 「サイズ」の問題児、新兵トークンを動かす「徴兵」。このアクション最大の魅力は、唯一継続的かつ他人の手番にもリソースを得られるアクションであるということである。

 効用の一つ、獲得時ボーナス。こちらは実行時に戦力・民心・金・戦闘カードのうちいずれかを二つもらえる(一種につき一回)。序盤の戦力補充に加え、得点源である金、重要なリソースでありながら獲得しにくい民心を得られるとまあ言うことなく強い。

 二つ目、継続ボーナス。こちらは解放に対応する下段を自分もしくは両隣のプレイヤーが行った場合、リソースを獲得できる(「展開」→1金、「徴兵」→1戦闘カード、「改良」→1戦力、「建設」→1民心)。まず、自分の行動にも反応するのが強い。周りがやらなくても徴兵から解放すれば4回やって3枚+2枚の戦闘カードがもらえる。これだけあれば充分に戦闘できる。また重要な「展開」で1金もらえるのも強い。自分の「展開」も含め、「徴兵」だけはたとえ「徴兵」自体が0金だとしても、「展開」より先に実行し、メックを4台出せば最低2+4金、最大2+12金ももらえるのだ。正直単一のアクションとして強すぎる。得点獲得能力もそうだが、このアクションを実行しているかどうかで継戦能力が明らかに違う。正直、0金でも実行したいアクションになる(もちろんファクトリーカードによる実行したいアクションでもある)。

 ただし、このアクションは時間経過とともにアクションの価値が下がっていくという特徴がある。資源・資金の都合から早期の実行が難しいようだったら、潔くあきらめるのも一つの手である。後半になって固執するとろくなことにならない印象である。多分それでも頑張れば勝てる。多分。

建設

コスト:木材1~4個

獲得:施設1つ→ワーカーのいるマス、0~3金

 とにかく「移動」が要ることで割を食っているアクション。1回打つの2.5手番くらい必要な印象。効用は「上段アクションの強化」と「他国に支配されていない区域の領地化」の二つ。後者は無いようなものなのでメインは前者。今考えると建物が4種類あってそれぞれ効果が違うのはいかれている。

兵器庫:「交易」強化、「交易」を打つたびに戦力1獲得

風車:「生産」強化、「生産」を打つたび風車から対応する資源1を獲得

記念碑:「増強」強化、「増強」を打つたびに民心1獲得

鉱山:「移動」強化?、トンネル区域と自由に移動できる

メックを出さずに川を渡れる鉱山の他に、打つ回数が増えがちな「増強」によって、不足しがちな民心を確実に獲得できる記念碑は体感強い。風車は使えそうだが、活かせたことは今のところ一度もない(大体出せるころには「生産」が終わっている)。兵器庫はないよりはましだが、ありがたく感じるくらい「交易」していたらおそらく金欠で負ける。

 製作者も「移動」が必要という欠点はおそらく認識しており、建造物には特定の区域に建てることによるボーナス点が存在している。この点ではアクション自体が点数につながらない「改良」よりはるかに強い。

改良

コスト:油2~3個

獲得:改良1回、0~3金

 重要だが、何回実行するかを決めるのが難しいアクションでもある。効用は単純明快で、「上段アクションの獲得強化」「下段アクションのコスト軽減」の二つである。ワーカーの数によってコストが決められている以上、基本的に後者がメインとなる。つまり、「改良」コスト軽減によって下段のうち2つのアクションの計コストを5にし、ワーカー5人で「生産」を賄うのが強い(「生産」→「その他」→「生産」→……で毎ターン下段アクションを打っている)。が、これを行うのにオイルが4~6個必要だったり、「改良」自体は何も生まなかったりで、実行するタイミングは難しく感じる。そもそもこの分のオイルを出すパワーで必要な資源を出してしまう方が早い場合もある。(不足分は「生産」の回数を増やしたり、「交易」で賄う手もある)。だが上段の強化も魅力的なので難しいところ。特に「移動」ユニット増加と「増強」戦力増加は優先的に開放したい。逆に言えばそれ以降は取って嬉しいものがない(※個人の感想です。「改良」の強さには個人差があります)。また下段アクションの回数は限られているため、「改良」も「徴兵」と同じく時間経過によって価値が下がる。

 いずれにしても何回実施するかは最初に決めておき、ブレないようにしたいアクションである。ただし、資源が余っている場合は積極的に行いたい。人から奪ったオイルでやる「改良」最高。

 

 こうして列挙してみると、いかにこのゲームの奥が深いかがよくわかる。このゲームは究極的には上記のアクションの組み合わせしか行わないが、上記で自分が「サイズ」について考えていることにすら半分にも及ばない(国の固有能力と移動のせいだが)。いわんや、ゲーム自体の奥深さをや。せっかくこのゲームを遊ぶ機会に多く恵まれているので、考えたことは都度出力していきたいなと思った。布教は使命。

 

 

 

Brace Yourself Games『クリプト・オブ・ネクロダンサー』

Konga Conga Kappa

Konga Conga Kappa

概観

 ローグライク×リズムアクションというありそうでなかった画期的なゲーム。

 ローグライクとしては空腹度も各種ステータスもなく、やられるかやるかの単純なゲームなのだが、リズムに合わせて十字キーを押さなければ動けないという要素が異様にゲームを難しくしている。

 全ての敵NPCには行動アルゴリズムが設定されており、各リズムに合わせて動くことができれば、1ダメすら喰らわずに完封することができる一方で、一回でもリズムを外せば苦しい状況に落とされるというか大体はそのまま死ぬ。

 しかも階が深くなればなるほどリズムはアップテンポになり、敵は強くなっていく。単純で奥深くやりこみ甲斐のあるゲームだ。

 

クロダンサーと愉快なモンスターたち

 操作キャラのケイデンスや、表題にもなっているネクロダンサーが示す通り、登場する重要キャラクターたちはみな音楽をもじった名前になっている。

 アンデッドが潜む暗い洞窟でありながら、ノリノリのパリピモンスターが大量に湧くシュールさもこのゲームの魅力の一つだ。やっている間は疑問を感じなかったが、コンボを決めるとダンジョンがディスコ(死語)のようにになるのはどう考えてもおかしい。

 その反面、メインストーリーは死ぬほど暗い。文字通り最初の操作キャラであるケイデンスが心臓をネクロダンサーに奪われるところから始まる。そのせいで奪われた心臓の鼓動に合わせてしか動けなくなったケイデンスはネクロダンサーを追うのだが、その過程で自身の血族に深く関わる呪われたアイテム「ゴールデンリュート」の存在を知り……とまあゴシックホラーを彷彿とさせるバックストーリーが展開される。しかし、最奥に到達していると待っているのはネクロダンサーであり、なぜかお立ち台(死語)の上にお立ち台(死語)ギャル(ゾンビ)のバックダンサーとともに乗っているのである!

 総じてコンセプトの秀逸さ、ゲーム部分の楽しさ、キャラクターの可笑しさいずれにおいても秀逸な作品だ。プレイキャラクターもケイデンスだけでなく、様々な「縛り」があるキャラクターで遊べると、なかなか飽きることなく遊べる。

 そして何より音楽が良い。このコンセプトのゲームで音楽が微妙だったらその時点でおしまいなのだが、その点このゲームは勝っている。何しろアップテンポな曲調が多く、高速で敵の攻撃を躱しながら処理していくというゲーム性にあっている。個人的には特にボスの一人、King Konga のBGM、KingKongaKappaがお気に入りだ。(何とこの曲だけ8拍子目のノーツが抜けており、休符があるため、焦ると外す確率が非常に高い)

 難易度の高さと、うまく動けた時の気持ちよさという作品の魅力を存分に生かす音楽だと言える。

 

チラシの裏

 読まなくて良いが、このゲームマゾすぎる。始めたのが一年前だが未だに最後のストーリーキャラクター、「アリア」がクリアできていない。ビートミスで即死、体力1(一回だけ蘇生あり)、最弱の武器である普通のダガーしか使えないとストーリー付きとは思えないマゾさである。ダンジョンに潜るのは若い者に任せとけと言いたくなる。

 そもそもラスボス前のダンジョンから言って異様に難しい。3階+最終階しかないのにも関わらずである。ただでさえ高速でダメージを喰らわないように移動を考えなければいけない中でこちらをテレポートさせるウォーロック、攻撃に耐性があり変則的な突撃を仕掛けてくるブレードマスター、混乱とかいう最悪なデバフをまくリッチが脳みそを破壊しに来る。さらにライフが1しかないアリアは、最弱っぽい最強のモンスター、バットにぶち殺されまくるハメになる。(このゲームは大体のキャラクターはどう動くか決まっており、正しい動き方をすれば接敵していても攻撃を躱せるのだが、バットだけ動きがランダムである)。

 またこれは携帯機でやっているせいでおま環なのだが、敵が増える3階以降、異常に処理落ちする。どうもトーチで照らされる範囲の敵について移動処理を毎ターン行っているらしく、トーチ+2以上を持つとめちゃくちゃ処理落ちする。そしてリズムがズレ、あとは沈黙……。

 なおアリアより難しいキャラクターも存在している。(私には関係ないことだが……)基本ローグライク好きはマゾだし(偏見)やりすぎなくらいでちょうどいいのかもしれない。でもケイデンスだけでも正直難しい。ケイデンスの場合強アイテムでゴリ押せるが。とりあえず自分がマゾじゃないことがわかりました。(小並感)

またいつかリベンジしたい。多分、きっと、機会とやる気と元気と時間があったら。

スパイク・チュンソフト『絶対絶望少女』

希望の先にある、絶対的絶望。

概観

 ハイスピード推理アクションADVの名作、ダンガンロンパの外伝にあたる本作は、その趣を大きく変えたアクションSTG風のゲームである。

 まずこのゲームは時系列的に『ダンガンロンパ1/2』の中間に位置するゲームであり、それらの作品と密接な繋がりを持つ。故に『ダンガンロンパ』について先に書いておかなければいけない気がしたのだが、諦めた。

 なにせプレイしたのが六、七年前のことである。というか1が出てから既に十年経っている。多分シリーズの黒幕を知らないやつの方が少ない。アニメとかももはや隠す気すら無い。すでに散々語り尽くされているコンテンツであり、うろ覚えの知識で語るくらいだったら書かん方がマシということになった。(まあ私の書く駄文など全て書かん方がマシなのだが)

 というわけで以下はただの日記帳であり、希望ヶ峰学園を巡るダンガンロンパをやったことある人に向けた駄文。ネタバレ配慮は浜で死にました。

 

『希望』のその先、『絶対絶望少女』

 つまりこの作品の意義は、1のエンディングで苗木誠が開いた、希望ヶ峰学園の扉のその向こう側のその世界を体験できることにある。

 『ダンガンロンパ』というゲームのコンセプトの一つとしてクローズドサークルでのコロシアイ、及び犯人当てゲームである学級裁判がある。コロシアイとは常にお互いがお互いを殺せる距離にあることを示し、また犯人当てをゲームとして成立させるためには、犯行可能性について限定が必要であるから(あくまで犯人当ての前には容疑者が提示されなければならない)、クローズドサークルが舞台となるのは、当然の帰結である。

 故にダンガンロンパ1/2は、いずれもそのクローズドサークルから脱出する決意を抱いた時点で終わり、その向こう側の『絶望』が描かれることがない。

 しかし『絶対絶望少女』は推理ゲームではなく、外側の人間、苗木こまるを主人公として、そんな外側の世界を描く。苗木誠たちのその後の苦労がわかるだけでやる価値がある。解放されたイカれた世界を歩き回ったりするのも面白い。(いささか下品過ぎるが)

外側の世界と、外側の二人

 また、『絶対絶望少女』は、舞台設定だけではなく、主人公2人も外側として描く。つまり、苗木こまるであれば、それは希望でも絶望でもなく、何の才能も持たない苗木こまるとして。

 才能は『ダンガンロンパ』の世界を語る上で重要なファクターである。単になんちゃらが得意というよりもスタンド能力とかそういう類のものに近い。某私様やつまらない人がやる通り、それはまた測ったり再現が可能なものである。

 そういったものとして超高校級の彼らを見た時、最も問題となる才能は、もちろん「超高校級の幸運」である。ただ偶然選ばれただけである苗木誠は、自らを「前向きなのだけが取り柄」の普通の人間と称する。では苗木誠は「幸運」の才能を持っていないのかというと、これは明らかに持っている。(特にアニメのダンガンロンパ3の描写は常軌を逸している。異能生存体か?)つまり苗木誠は言うほど全然普通の人ではない。

 それに対して、日向創は常人と超人の境界で苦しむキャラクターである。彼が両方に属している境界人であることは、いわゆる覚醒状態の彼の姿となって現れる。

 また、2における重要な登場人物である狛枝凪斗は日向創の才能に重きを置く部分のペルソナであり、七海千秋は創られた才能という点で日向創のペルソナである。いずれにせよ常人であるが、常人ではないというアプローチのキャラクターだと言える。

 つまり全くもっての普通の人の主人公(希望が峰学園の外側)ということが苗木こまるのコンセプトであり、意義であると言える。

 それに対して腐川冬子は、ダンガンロンパ1において最も例外だった人間である。腐川冬子はダンガンロンパ1の下記の暗黙の構造に違反している。

①登場人物は黒幕側を除き記憶を失っており、それ故にかつて同級生の友人であったにもかかわらず殺し合う。

②登場人物たちは本来は友好的な関係を築くことが可能な(あるいは築いていた)善人であるにもかかわらず、①により殺し合う。

③学園内より学園外の方が危険であるが、①により登場人物たちは外の世界に出るために自主的に殺し合う。

 以上が超高校級の絶望が仕掛けた絶望の全量である。後続の作品のやり口と比べると如何に狡猾だったかがよくわかる。つまるところ、才能を持つ善良な人間が、倫理や友情などと言ったものを、自分からかなぐり捨てた上、自分だけ生き残ろうとする人間の醜さを晒し、その上でその全てが無駄にすぎないことを知らしめるショーのためには、①-③の条件は欠かすことができない。

 だが、腐川冬子=ジェノサイダー翔のみはこれら全てに違反している。

①:ジェノサイダー翔は記憶を失っていない。

②:元々殺人鬼であり、善良ではない。

③:ジェノサイダー翔は外の世界について知っている。

 これは冷静に考えると色々ヤバく、まずこいつの存在を許容した時点で、江ノ島盾子を悪と断ずることができるのか?という深刻な倫理問題が発生する。しかも身体能力が高すぎる。具体的にいうと残姉とタイマン張れる程度。モノクマも余裕でぶっ倒せるレベルなので、コロシアイ学園生活でもほとんど殺される心配はなかったと言ってもよい。創造神のお気に入りだけあってまさに例外的存在である。

 まあそういう例外的存在と逆に例外である凡人のこまるのタッグで外側の世界を生きる外伝、それが『絶対絶望少女』なのである。

チラシの裏

 ここまで書いといて、ゲームとしては割と微妙だった気がする。特にカメラがマジで終わっている。ボス戦のオート視点移動に発狂しそうになった。繰り返されるモノクマパズルもまあ楽しいかと言われるとそうでもない。

 差し込まれる映像はなんかかなり気合が入ってた。それだけでもまあ買う価値はあるかもしれない。ファンサービスといった趣のみが強い場面も多々あったが。やったことないけど多分思いっきり絶体絶命都市のパロディ。

 自分が知っているシリーズの中で一番倫理的にやばい。下ネタ多すぎるし、何より敵が小学生なのが最悪すぎる。アメリカだったら発禁になってるレベル。それ故に「おしおき」が何とも生ぬるいものに。これは3への文句だが、あんだけ大人の死体転がしといて、生きてちゃダメだろ。

 モノクマが踊る。正直モノクマはマスコットとして売るにはデカすぎるしデザインが色々凶悪だしアレだが、正直モノクマがいるのでダンガンロンパやってるとこあるので、概ね満足。でもボールモノクマだけは今すぐアプデで存在ごと消せ。

 有能な御曹司と無能な占い師とかがファンサの面から言うと良い。

 あと狛枝が喋るので百点です。出せば点が取れるずるいやつ。でも怪演すぎて好き。僕の銅像を立てて欲しいとことか。

 希望の戦士は……ちょっと......倫理的に……。あと超小学生級ってなんだよ(哲学)。

まあこまると腐川の友情とかもベタすぎるけど良かった気がする。塔和なんとかって人は刹那で忘れちまった。

 ダンガンロンパの露悪的なとことか臭いとことかが好きな人なら好きなゲームだと思います。やってる時はボロクソ言ってたけど今思い返すと何となく面白かった気がする。多分。でもやり込む気はゼロ。

スパイク・チュンソフト『ザンキゼロ』

人類の明るい未来を照らしましょう!

概観

 晴れた日に空を見上げると、吸い込まれるかのような錯覚に陥ることがある。そこには何もないからだ。何もないからこそ、青空は美しい。つまり、終わった世界も、また同様に美しい。
 神様が世界を作るのに7日、人間が壊すのは一日。自殺したかと思ったら世界が滅んでて人類の「残機」が8しかありませんでした系ノンストップ残機サバイバルRPGが『ザンキゼロ』である。
 具体的にゲーム内容を説明すると、ダンガンロンパを思い出させる特徴的な訳ありのキャラクター八人と、謎の無人島で流れる悪趣味な「エクステンドTV」に導かれ、流れ着く廃墟島を冒険しながら、世界が終わった真相に迫る、ADV+リアルタイム3Dローグライクと言ったところか。正直言って好きな要素しかない。
 しかし、特殊な設定はこれだけではない。このゲームの最大の特徴は、「老化」システムと「エクステンド」にある。

13日の人生と、「エクステンド

 その1として、このゲームは八人の中から四人をパーティとしてダンジョンに潜ることになるのだが、様々な事情で難易度がかなり高く、よく死ぬ。8人死ねばゲームオーバー、つまり登場人物8人はまさに残機なわけだ。
 その2、なんと作中には日数で表される時間経過があり、その時間に応じて1人のキャラクターを除き、老化する。幼年期→青年期→壮年期→老年期という四段階を経過するスピードはわずか13日。もちろんその先にあるのは死である。
 その3、全滅しなければ、ゲームは続く。それが「エクステンド」である。ゲーセンの筐体を思わせる「エクステンドマシン」に登場人物たちのヘソに埋め込まれた(死なないと取れない)、「ペケ字キー」をはめ込み、スコアを消費すると、幼年期の状態で、復活する。正確にいうと復活ではなく、記憶が継続した新たなクローンが生成されているのだが。
 かなりの速度で繰り返される生と死のサイクルを、時に回し、時に回されながら、廃墟のより深くへ潜っていく。通常一回死ねば全てがリセットのローグライクにおいて、このような管理の必要があるのは、煩わしくも、面白い。それぞれの姿が用意されたキャラクターたちと流れ行く輪廻をコントロールしながら、攻略していく点が、RPGとしての特徴であり、またその極端なまでの特殊な設定がADVとしての特徴である。
 また、満腹度や尿意、ストレスなどのゲージがあり、極限状態のサバイバル感を醸し出すローグライクゲーム要素もあり、難易度が高いゲームが好きな人にオススメの作品となっている。  

8つの廃墟と、ガレージキッドの仲間たち

 世界は終わっていて、廃墟には未知の化物が生息しており、状況は分からないまま、死と苦しみを繰り返させられる。それでも、彼らはエクステンドマシンのパーツと過去の真実を求めて、流れ着く廃墟島に向かう。そこで明らかになるのは、八人の過去だ。
 詳細についてはここで語らないが、先述したエクステンドTVは七つの大罪の二つ名を科せられた登場人物たちのかなりエグい過去を晒す内容となっている。そして彼らは小学生の時、自分たちが「ガレージキッド」の仲間であってことを思い出す。その人数が「7人」であったことも。
 1人裏切り者が混じっているのは定番だが、幼少期の仲間というのがまた良い。『ザンキゼロ』でエクステンドTVが語るのは全て過去の話であり、覆ることのない、既に終わった話である。つまり、『ザンキゼロ』はその根底から後日談(エクステンド)であり、幼少の続き(エクステンド)を描く物語でもあるのだ。
 さて後日談に欠かせないのが廃墟である。『ザンキゼロ』に登場するステージ=廃墟は下記である。
・ビル(出版社)
・自然公園(ツリーハウス?)
・地下鉄街
・温泉街
・豪華客船
・学校
・病院
海上プラント研究施設
これがまた作り込まれており、かなり雰囲気がある。特に病院やら学校やらは登場するクリーチャーのキモさが凄く、また暗いことからかなりホラーテイストとなっているが、結果的にあの頃の仲間と廃墟を探索できるというのがこのゲームの魅力の八割を構成しているように思える。世界の終わりに一家言ある人におすすめである。

チラシの裏

 ネタバレ含まれてて読まなくていいやつ。というかあまりに前すぎてこれ以上書くこと忘れた。キャラクタ評とかやろうとしてた気がするけどめんどい。
 ストーリーは実は後半かなり雑。主に黒幕とラスボスの動機と行動が噛み合ってない。冷静に考えるとやってることめちゃくちゃすぎる。でもエンディングの演出がかなり良かったからまあまあ許せる。ぶっちゃけ卑怯だが、良かった。
 あとは島が動くとしてそうはならんやろ。でもゲームなんでよし。
 RPGとしては難しいを超えて理不尽。というかただ嫌がらせと初見殺しのギミックが多い。割りに短調。(そういうコンセプトとはいえ。)まず、ローグライクと同じく敵のいる座標には移動できないので、リアルタイムで移動する敵に囲まれると絶対に死ぬ。またプレイヤーの攻撃はクールタイムがあり、なおかつチャージ攻撃でなければお話にならないため、戦術としてはひたすらヒットアンドアウェイすることになる。(つまり単調かつ囲まれたら絶対に死ぬ(2回目)。)ただでさえそのような仕様なのに、暗い狭いステージが多い上、エグい敵が多い。背中を見せるとものすごい勢いで近寄ってくる影男型や、彫像に擬態するキモくて毒持ちでターゲットにとりにくい擬態型はまじで最悪である。よく囲まれて死ぬ(3回目)。また罠も即死級のものが多すぎる。フロア落下で囲まれる(そして死ぬ(4回目))などは序の口で、踏んだことに気づくのが数秒遅れると、暗がりから発射され続ける矢に皆殺しにされる。3Dのため位置把握はかなり難しく、またリアルタイムで動くため反応しなくても死ぬ。何より最悪なのはそうやってフロア移動するたびに年齢が経過もしくはリセットされ、再度攻略に適正な年齢になるまでに時間がかかることである。ぶっちゃけエクステンドするよりロードしたほうが早い。クラフト要素などやり込み要素などもあるが、正直もうやりたくない。
 キャラクターはかなりいい。全員エグい過去持ちだが、冷静に考えると本人ほとんど悪くないものばかりである(一部除く)。いかに断罪というものがバカげたものかがわかる。それもあり、ピーキーな設定の割にかなり嫌味がない。ダンガンロンパはわりと登場人物の根がクズだったりするので(余談だがダンガンロンパの本質は洗脳されてなくても普通に計画的に殺っちゃう人がいることにあると思う)、多分その辺は好感が持てた。その分過去がエグいが。ポップ要素とか皆無。生々しくてジクジク嫌な気分になるタイプのやつが多い。あとわりと下ネタとかが無視できないレベルで多い。特にゼンくんの過去とボスがまじでエグい。あれで嫌になる人かなり多いと思う。まあ全部終わってしまってもう変えられない話なんだが。
 とにかく雰囲気が良くて、それを存分に活かしてうたゲームだった。ダンガンロンパもあのエリアが解放された時の探索が好きなんだよな。ゲームとしてはストレスフルだが、まあどマゾにはおすすめ。もう少し戦いが短調じゃなかったらまだやりこみがいがあったと思う。ローグライク意識なら敵の行動もっと遅くしてくれ……。考えてる余裕がない。結局クラフト全然埋めないままエンディング見て投げた。だいたい三十時間くらいやった。もうやらないけど2が出たら多分買う。そんなゲーム。  

Sukeban Games 『Va-11 Hall-A』

一日を変え、一生を変えるカクテルを!

概観

 腐敗した政府と、大企業によって牛耳られた街、グリッチシティ。その片隅に、「ヴァルハラ」と呼ばれるバーがあった。

 そんな感じで始まりそうなサイバーパンクバーテンダーアクション風ADVゲームが「Va-11 Hall-A』だ。プレイヤーは主人公ジルとなって、次々と訪れる個性豊かな客に要求通りのカクテルを提供したりしなかったりして、時にそれが人生を変えたり変えなかったりする。

 概ね、要求通りのカクテルを出していれば各エンディングが解放される造りになっているが、時折脳内当てゲームの出題者がやってくるため初見で全部正答するのは無理に近い。

 カクテルを提供し、客の話を聞く。『Va-11Hall-A』はほとんどただこれだけのゲームである。しかし、舞台となるグリッチシティはある種の人間にとって、特別な舞台だ。例えば、超法規的な大企業、ナノマシン、アンドロイド、自警団にテロリスト、ハッカーの都市伝説とゴーストといった言葉に胸躍らす人にとっては。

 

サイバーパンクと『Va-11 Hall-A』のイミテーション

 例によってサイバーパンクの定義については戦争を引き起こしかねず、また私は平和主義者であるため、しない。

 この節で語るのは、『Va-11 Hall-A』がいかにサイバーパンク“っぽい”かということである。

①:ハッピーではない感じの近未来社会を描く。(舞台は207X年のグリッチ(欠陥)シティである。ちなみにサイバーパンクTRPGの名作である『シャドウラン』ではグリッチというファンブルが存在する)

②:サイバネティクス(体の一部を機械に置き換える技術)が存在する。

(猫耳赤髪ツインテ片目義眼お嬢様のステラとかいう属性てんこ盛り女)

③:ロボット・アンドロイドが登場し、社会の一部として存在している。

(人型アンドロイド、リリムは『Va-11 Hall-A』の中心的登場人物である)

④:現代の文化が部分的に失われており、独自の文化が存在する。

(登場するカクテルに現実と同様のものは存在しない)

 以上の通り、グリッチシティはサイバーパンク好きには堪らない要素、つまりサイバーパンク“っぽい”モノで構成されている。あるいは、サイバーパンク“っぽい”ものを集めたが故のサイバーパンクなのかもしれない。それはサイバーパンクのエイドスであると同時に、イデアの模倣、イミテーションでもある。私見だが、このイミテーション性は、サイバーパンクを語る上で重要な意味を持つ。

 例えば、④について見れば、提供するカクテルはあらかじめ提供されるレシピが決められているが、現実と同じものはほとんど、あるいは全くない。名前が同じものも、材料は謎の化学物質であり、我々が知るそれとは全く異なる。

 つまり、ジルが提供するカクテルは、現在(作中から見れば過去)に存在する酒の模倣品、偽物ということになる。(最も多く提供する“カクテル”の一つ、“ビール”がそれを象徴している)。

 しかし、サイバーパンク世界においては、イミテーション、つまり偽物が本物としての役割を果たし始める。高度に科学技術が発展した資本主義社会は、「本物」を徹底的に破壊するからだ。「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」のと同様に、限りなく本物に近づいた偽物は、本物と見分けがつかないのである。そうなれば、一体「本物」であることにはなんの価値があるというのだ? ある社会を生きる人々にとっての本物は、常に彼らが日常的に触れるものである。

 それは例えば安価で大量生産される全ての製品であり、人間の身体の一部の代替であり、人間の知性の模倣であり、そして嗜好品である。サイバーパンクは偽物たちの物語なのだ。

 つまり何が言いたいかというとどっかで見た要素ばっかだとしても、それが『Va-11 Hall-A』の良さを損なってはいないという話。

 

資本主義のディストピア・性のユートピア

 資本主義がいかにクソで発達すればするほど人間から人間性を奪うかについては某『共産党宣言』が語る通りである。歯止めをかけなければ、貨幣はいずれあらゆるものを「換金」する。法や、権利や、人の命でさえも。ディストピアにはだいたい三種類あって、ソ連アメリカか、『進撃の巨人』である。グリッチシティは『ニューロマンサー』や『シャドウラン』、もしくは『ニンジャスレイヤー』同様にアメリカ型である。ここで描かれるのは、当然労働者、あるいはそれ未満の者の閉塞感だ。そして労働者といえば、酒場である。

 ところで、酒場はこの世の天国である。少なくともある種の人々にとって。アルコールと閉鎖的空間によって日常から解放され、あることないこと口にできる。主に下ネタ。

 『Va-11 Hall-A』の大きな特徴の一つとして、下ネタの多さがある。これはこのゲームが下品というわけではなく(あるいはこの作品も全人類も下品かのいずれか)、それだけグリッチシティが性に開放的であることを意味する。

 最もそれが顕著なのは同性愛への寛容さだろう。同性愛者が尊重されているわけではない。同性愛者が同性愛者であることに対して、レスポンスが存在しないのである。これは少なくともジルの周囲において、社会的な障壁が存在し得ないことを意味する。まあそんな感じでグリッチシティは政治が腐敗している一方、驚くほど先進的である。性的な意味で。

 

たかが一期一会、されど一期一会

 舞台の話をしすぎなので物語の話をすると、人生割と詰んでいる(「Va-11 Hall-A」は開始時点で閉店予定)バーテンダーのジルは、家賃諸々の支払いを目指しつつ、客の物語に断片的に関わっていく。

中心として展開される物語は大体以下のような感じである。

①:ジルの元カノの話

②:ホワイトナイト(警察みたいななんか)関係の話

③:ドロシーの話

④:その他人物の話

 大体本格的に語られるのは①だけで、後は断片的に語られるに過ぎない。これは自宅と職場を往復するだけの人生をジルが送っており、プレイヤーもそれを追体験するためである。酒の席でバーテンダーに対して、己のすべてを語る人間は存在しないから、これは妥当と言える。

 むしろ全くの他人同士が、バーという空間で接触し、お互いの人生が断片的に見え、時に小さいようで大きい変化が起きる。それがバーの醍醐味であり、『Va-11 Hall-A』の醍醐味なのかもしれない。

 

チラシの裏

 長々書いたが結論を出すととことん雰囲気ゲー。内容がないようだけど酒の席だからまあなくても妥当みたいなゲーム。冒頭でダラダラやれって言ってる通りである。

 バーテンダーアクションらしいがアクション要素は無い。ひたすらレシピ通りに材料を投入するだけである。レシピが最初から大体30種くらいあるがそんなにあるゲーム的な必要が特に無い。というかそもそも酒作るパートが存在する必要がない。無味。ついでに酒作るときはバックログ見れない上に毎日散財してないとジルは即効注文を忘れる。流石にもう少し真面目に働け。サイコパス味すら感じる。

 雰囲気ゲーあるあるとして、匂わせるだけ匂わせておいて回収してない伏線や前作ネタが多い。回収する気ないなと途中で気づくと萎えるタイプなので萎えた。特にアナ。

 人の同性愛を鑑賞する嗜好の持ち主でも人の痴話喧嘩を鑑賞する嗜好の持ち主でもないので、ジルの元カノがうんぬんかんぬんは、ふーん、そっかーとしか思わなかった。おそらく酒の席でなんも喋れない人間がやっていいゲームではない。

 そこそこハードな世界観の割に、一部キャラクターがやけにアニメチック。アラサーで地面に届きそうなほどのツインテールをするジルを見るたびに可愛いとかよりもやべえこの女……という感想が湧いた。スマホのホーム画面といい絶対激重。

 「一日を変え、〜」のやつは英語だと「Time to mix drinks and change lives.」らしい。業務の始まりの標語なので、「人生を変えるカクテルを作る時間ね(仕事の時間ね的な)」みたいな感じが正確な訳だろうか。語呂的には翻訳前、翻訳後共に良い。

 あーだこーだ言いつつVITAのやつで全部のエンディング見た。(途中でスキップに気づいた)だいたい十五時間から二十時間くらいやった感じだった気がする。

Lucas Pope 『Papers, Please』

アルストツカに栄光あれ。

概観

 究極的には、緑色か赤色のボタンを押すだけの簡単なゲームである。しかしこれがなかなか面白い。

 アルストツカという架空の全体主義国家で、主人公は入国審査官となって、規定に沿って入国者の書類を照会し、入国の是非を判断する。

 問題はその規定がほぼ毎日のように追加及び変更されていくことだ。

 『Papers, Please』はそんな理不尽な状況で、家族を養うために、どんどん増える要求に負けず、完璧に正確な入国審査を目指すゲームではない。規則に忠実な入国審査を行うかどうかを選択するゲームである。

 

貴方には命令に従う自由が与えられる

 規則違反には警告と罰金が与えられる。一つでもルールを守っていなければ即座に右下からピンク色の紙が迫り上がってくる。こいつが好きな奴はあまりいないだろう。

 しかし、その一方で、関所を訪れる人々の中には、プレイヤーに規則を守らないことを要求する人々が多く存在する。(だいたいは緑のボタンを押せという)その要求に従った場合の結果は様々だ。感動の再会があれば、人が死んだり、自分が刑務所送りになったり、口汚く罵られたり、人が死んだりする。その逆も然りだ。

 どのみち大体ロクな目に合わないが、そういった他人(あるいは自分も)の人生が決定する瞬間というものを、ハンコ一つで左右してしまうというある種の滑稽さが、『Papers, Please』の根底にはある。

 もちろん、それはそれとして正確な入国審査をしなければ待っているのは家族の全滅以外の何物でもないのだが。

入国を哀願する者にDeniedのハンコを押しつけ、ほぼ完璧な入国審査官を目指すのもまた選択の一つなのである。(ちなみに完全に完璧な入国審査官は残念ながら長生きできない)

 

理不尽を笑え

 アルストツカは全体主義の持つ腐敗と管理の窮屈さに溢れるなんとも息苦しい国であり、主人公も実に理不尽な目に合わされる。アルストツカがディストピアのモチーフを用いているのは明らかだ。

 ところでディストピア物は何が面白いか。それは理不尽であることにあると私は考えている。つまり、ある点で理不尽は滑稽に反転する。過ぎた悲劇は同時に喜劇でもあるとの論を私は展開したい。それはなぜか。真の理不尽の中に人が立たされた時、人は笑うことしかできないからだ。

 理不尽とは何か。道理に背く状況であり、なるようにならない結果である。なぜそうなったか分からない状況で人には何ができるだろう。悲しむのか、それとも怒り狂うのか。しかし、何に?

 理不尽とは因果の否定であるから、その原因を何かに求める事はできない。故に、人は正しく怒る事も悲しむこともできない。対象となる原因が存在しないからだ。しかしただ笑うという行為のみが、理不尽な結果を否定しうるのだ。

つまり、『Papers,Please』は理不尽な目に合わされた挙句酷い終わり方をする故に、笑えるゲームということだ。

 

押してはいけないボタンと、押したいボタン

 人はなぜボタンを押してしまうのか。ボタンを押して何かが起こるか知りたいからである。何かが起こって欲しいからである。何かが起こったら面白いからである。

 何かとはなんでもいい。音が鳴れば、面白い。光を放ってもまた面白い。押すたびに結果が変われば最高だ。

 『Papers, Please』はまたそんな押す喜びに特化したゲームでもある

 とにかくSEがいい。ハンコの棚?を引き出した時の音から、押した時の音、写真を撮る音や通報した時の音など、このゲームには押して楽しいボタンがたくさんある。

 ゲーム自体が単調でありながら、なかなか飽きない秘密がここにあると個人的には考えている。

 個人的には拘束ボタンが一番押してて楽しいボタンだった。ビープ音と人が殴られて連行されるシュール感がいい。

 余談だがスタート場面のBGMもめちゃくちゃ良い。

短い時間でこんなに印象に残るBGMはなかなかない。

 

チラシの裏

以下チラ裏。人にもらった物なのでちゃんと実績全取得してから書こうと思っていたが、一生感想言えなくなる気がしたためこの際書き上げてしまうことにする。

このゲームの最大の欠点はゲームの中で割と集中力のいる書類仕事をさせられるという点だ。仕事を終え戸塚から死ぬ思いで帰ってきて、アルストツカでピンクの紙と戦いながら仕事して、寝て起きたらまた仕事が待っているとかどういう冗談だ?

最初の二周はともかく色々わかりきってる状態でもう一周やらされるのがキツすぎる。

しかも一周がそこそこ長い。

学生時代にやっときゃよかった。

他にもエンディングのカタルシスがなさすぎるみたいな欠点もある。海外ゲーだから当たり前といえば当たり前だが。結構ゲームのプレイに払う時間と集中力が大きい割には、あっさりした終わり。それも味だが。

セーブシステムは天才が考えてる。全ての分岐型ゲームはこのセーブ方法を採用しろ。

モブ顔ばっかの中で唯一異常なほどの個性を発揮するJorjiとかいう漢。奴がいなかったらゲームの理不尽感もっと強くなってた説ある。かなり好きだったので一度も牢屋にぶちこまなかった。(しかし規則違反で通しもしなかった)

確かだいたい三十時間くらいやったはず。EZICの指示に一度も従ってないエンドの実績を解放してないまま放置している。今のセーブデータが最初っから協力してたのでやり直しなのがきつい。多分そのうち精神的に余裕がある時やる。

 

ケムコ『レイジングループ』

狂気の因習にまみれた集落で、殺人儀式「黄泉忌みの宴」に「死に戻り」の男が挑む!

 

概観

 恐ろしいは面白い。鮮烈で、グロテスクで、悍しいものに人は惹きつけられ、魅了される。そこには未知と、その真実を知り、理解したいという強い欲求があるからだ。人狼×和風伝奇アドベンチャー『レイジングループ』は、そんな恐怖に立ち向かう快楽を存分に味わえるADVゲームである。

 主人公、房石陽明はバイクで事故って山奥のいかにもな村のいかにもな集落に迷い込む。そしていかにもな因習といかにもな怪奇現象に巻き込まれ、何度も死んではやり直し、真実を追い求めていくことになる。

 よそ者を嫌う集落、休水で房石が巻き込まれるのは以下の三つの現象である。

1. 村全体が濃い霧に囲まれ、脱出することができず、夜外出した人間は「ケガレ」と称される何かによって殺害される(クローズドサークル要素)

2. 霧が出ると休水の住民は言い伝えに従い、人間になり変わったとされる「おおかみさま」を葬るため、1日に1人住民を選んで殺す「黄泉忌みの宴」を執り行う(人狼要素)

3. 房石陽明はゲームオーバーになると、その記憶をもったまま最初からやり直す(ループもの要素)

 金田一を彷彿とさせる古き因習と繰り広げられる惨劇、そしてループ要素など面白い要素しかない。実際とにかく話が面白い。

 ADVゲームとしてはどうか。前述したとおり房石陽明は死ぬまで記憶をある程度持ち越すことができるため、違った展開を引き起こすための情報を入手することができる。その情報によって新しい選択肢を選ぶことが可能になり、物語が進行していくというのが『レイジングループ』の大まかな流れとなる。チャート機能が充実しており、好きな地点にいつでも飛べる上、ゲームオーバー後のヒントも完備されているため実際選択肢で困ることは一切ない(初見殺しというか1デス確実に持ってくパターンが多いためプレイヤーはループしてる感はない)。ルートはだいたい3-4くらいで多くはないため、そこら辺は多少ループ設定と齟齬が出る。

 いやしかしそんなのはどうでもいいほど話が面白い。房石陽明は知的かつ論理的で、好奇心旺盛である。何より恐怖に対する頭のネジが数本トんでいる。そのため、実際に行われる人狼とかいうとんでもない風習にすぐに適応し、真実を求めて尽力していく。かなり独特な文章だが、不快感はそれほどない。むしろ深まる謎と徐々に明らかになる真実にどんどん引き込まれていく。何よりなかなかの特殊設定である「黄泉忌みの宴」を彼がどのように攻略していくかというのは本作の醍醐味の一つである。なおこれ以下はそれなりのネタバレが混じる。

 

黄泉忌みの宴

 霧が出ると黄泉から「おおかみ」が人に扮して現れ、夜な夜な人を襲う。これに対して村人は「へび(占い)」「からす(霊能者)」「さる(共有者)」「くも(狩人)」の加護を借り、1日に1人疑わしい人間を「くくる」(吊り)ことによって抵抗しなければならない。要は人狼を和風に解釈して実際に死ぬ仕様になった宗教儀式である。再現度は非常に高く、例えば前項で述べた「ケガレ」による死はネット人狼における「突然死(ルール違反や放置によるペナルティ的死)にあたる。

 しかし、「人狼」のセオリー(騙り出たら対抗とか、初日COとか)は通用しない。これが「黄泉忌みの宴」の最大の特徴の一つである。開始当初、基本的に村人は身内で殺し合いを行うことに消極的である。「人狼」ではあり得ないが、「黄泉忌みの宴」では話し合いの結果、人を処刑しないという選択肢が許容されうる。ここにあるのはルールを超えた個人の感情である。これが「人狼」のセオリーを狂わせる。実際、「宴」中の選択肢のうちには意図してセオリーを外さないと死ぬパターンが多い。

 そもそもルール外の殺し合いが発生しまくる。一応ペナルティはあるが逆に言えばペナルティ覚悟で殺人とかもできてしまう。というか実際にやるやつばっかである。

 忠実に「人狼」を再現しておきながら、「人狼」のようにはいかない展開の意外性は、作品を通してプレイヤーを楽しませてくれる。

 房石陽明は主に二つのパターンで「黄泉忌みの宴」に関わる。半分くらい進めたところで大体察すると思うが、それぞれへび(占い)の場合とおおかみ(人狼)の場合である。

 このうち前者は完全にズルである。何度も試行できる占いなどゲームをぶっ壊している。では簡単に勝利できるかというと、そうはいかない。ただでさえよそ者である房石が生き残るのはそう簡単なことではない(というか死ぬのは大体全部約1名の問題児の個人的偏見のせい)。一番人狼のセオリーを外しているルートであり、そのような戦略が求められる。

 後者の場合は、作品根幹に関わる重要な真実(謎)、なぜ狼が人を殺すのかに迫るルートである。個人的には最も「人狼」性を強く感じ面白かったルートだった。誰を噛み殺すか、誰に投票するか、一つ一つの選択が彼の命運を分ける(命運を分けない選択の方が少ないのだが)。強力な村人をいかに騙すか、誰を先に消すのが最良かなど、「人狼」の醍醐味がこれでもかというほど感じられる。そしてヒロインが可愛い。

 『レイジングループ』は「人狼」を取り扱ったゲームでありながら「人狼ゲーム」ではない。「人狼ゲーム」の面白い部分を抽出し、利用し、相対化し、皮肉り、裏切った欲張りなゲームなのである。

16人の登場人物

 「黄泉忌みの宴」には房石含め最大16人が参加する。彼らは非常にユニークな人物であると同時に類型的な人物でもある。回末李花子とかいう巫女装束風の女から始まり、村のしきたりにうるさい老婆、頑固で屈強な老人、優男風で学ランの少年、インテリ気取りの長者の次男坊などいかにもな村と惨劇にふさわしい人物ばかりである。正直言ってビジュアルも含め、どこかで見たようなキャラばかりだ。

 だが、ありがちなキャラであることはつまらないキャラであることを意味しない。「人狼」としてのセオリーから外れる時、そこには惨劇に巻き込まれた人間としての人間性が表出する。これを大切にして、丁寧に描き切ったことが、『レイジングループ』をどこかで見たような作品でありながら、どこで見たものよりも面白い作品にしている理由の一つだ。

 登場人物たちは時に疑わしきの首を吊り、時におおかみさまの勝利のために村人を惨殺する。そんな狂気的な行為とは裏腹に、村人たちが同時に善良な人々であることも強調される。例えば作中で房石が人狼だと明らかになった人物の四肢を切断することを提案した時、村人たちは「なんて残酷な行為を」と猛反対する。これは伝承によれば縊死させることこそが救済であり、彼らなりの正しさをもってそれを実行していることを示す。それは惨劇が狂人によるものではなく、あくまで善良であろうとする人々によるものであることを示す。

 『レイジングループ』の人物が持つこうした二面性は、多くのサスペンスの殺人者が持つ構造とは逆である。普通に見える人間の裏に殺人的狂気が潜んでいるのではなく、狂気的な行為を平然と行う人間たちが、どうしようもなく普通の人間なのである。個人的にはこのような世界も相まって、某京極堂の「殺人は狂人が行うのではない」という持論を思い起こさせる。

 『レイジングループ』はこのような命題を、各登場人物の個性を犠牲にすることなく見事描き切っている(時にある種のADVにありがちな「悪ふざけ」に走るが)。村の因習による殺し合いという悲惨なテーマでありながら、単なる悪趣味で終わらせていない理由の一端は、彼らにある。

そこそこ信頼できない語り手、房石陽明

 登場人物の中で最も特異な人物、それが房石陽明である。彼はADVの主人公として活躍する、頭のネジがぶっ飛んでいるタイプの「狂人」として類型化することができる。だが彼の真の異常性はその裏にある。問題は彼が「黄泉忌みの宴」に対して「読者視点」で関わりながら、その情報を本当の読者に開示しないことだ。

 彼は冒頭、「黄泉忌みの宴」のルールを知り、勝利のためには初日から吊りを実行しなければならないことを提示する。これは極めてゲーム的な考え方だ。もちろん、「人狼」というゲームを知っていて、この部分を読んだ読者は即そのことに気づくだろう。だが房石陽明という都会から迷い込んだ来訪者のことを考えた時、明らかに異常な儀式で、内部の人間すら否定的な処刑を、初見の外部の人間が提案するのははっきり言って異常だ。こんなことは命を命として見ていない人間の行動である。例えば、自分の操作キャラを動かすプレイヤーのように。

 房石陽明の行動はほとんどの場合プレイヤー的、あるいは読者的である。常に現状の状況を、あり得る可能性を全て使って「攻略」しようとする。しかし、実際にはその思考が語られない部分が多く存在する。これが房石のもう一つの異常性である。限りなく読者に近い存在でありながら、読者と明確な断絶を示す。「暴露モード」で明らかになるが、後から明らかになる山ほどの真実ははっきり言ってズルの領域だ。これが物語の展開を類型的でありながら、非常に不確かで魅力的なものにしている。少なくとも自分としては、強く印象に残る主人公だった。

チラシの裏

 以下誰も得しない小学生並みの感想。ネタバレ全開。

 風呂敷を広げまくってる割には奇跡的にたためてる。暴露モード+EXエピソードでギリギリ回収してるからやり方的にはかなりズルい。正直書きたいこと詰め込みすぎ。完成してるから文句ないが。

 基本的に面白さの暴力。ゲームで平日に徹夜とか大学生か。ゲームは一日一時間(戒め)。

 基本的にキャラ大体全部好き。特に能里の次男坊さんが好き。特に暗黒ルートの最後の方の処刑寸前のセリフには惚れた。人狼とかいうゲーム一生やっちゃいけない人間なだけでめちゃくちゃいい人だろ。

 巻ちゃんさん可愛いすぎる。いやこのキャラだけ特に設定が狂ってる。属性詰め込みすぎ。でも好き。房石さんに一番お似合いなのは千枝実さんだと思うけど。相性が良すぎる。

 オチはズルかズルじゃないかでいうとはっきり言ってズル。あらゆる問題は夢オチ、幻覚、科学技術で解決する。みんな知ってるね。だけどまあ許せるレベルのズル。はよ続き出せ。

 民俗学的側面も良かった。信仰関連はメインテーマなだけにかなりちゃんと考えられていると思う。ジンクスとかいうのもアイデアとして面白い。

 クリアまで40時間くらいを三日でやりました。不思議だね。面白くてやめられないとかいう拷問を受けた。もう仏舎利ロック再生するくらいでしか起動しないと思う。

mebius. 『グノーシア』

グノーシアは嘘をつく。人間のふりをして近づき、だまし、そして身近な人間を一人ずつ、この宇宙から葬り去る――

概観

  いわゆるネット人狼をやったことある人間なら誰しも、一度は騙りを盛大にミスって戦犯になったことがあるだろう。大体そんな場合は反省会に入り次第、居たたまれなくなってもう二度とこんなゲームやるかと逃げ出し、最低でもハンドルネームを変える羽目になる。

 『グノーシア』はそんな事態に一切陥ることなく『汝は人狼なりや?』を一人で楽しめるSF人狼ゲームだ。

 主人公は宇宙船の中で突然目覚め、現在の状況もわからないまま、セツと名乗る汎(イーガンの『万物理論』とかで出てくるアレ)に導かれ、船員の中に潜む敵、「グノーシア」を見つけ出す戦いに挑むことになる。

 設定上、「グノーシア」は人間と変わらない姿をしているが人間に対して敵対的で、船のワープ的な移動の際に一人ずつ船員を「消滅」(いわゆる「噛み」)させていく。人間側は、「グノーシア」による被害者がいなくなるまで、話し合いで怪しい人物を一人ずつ「コールドスリープ」(いわゆる「吊り」)させていくことで抵抗を試みる。このような設定でSF化された『人狼』を、最大十四人の個性豊かなキャラクターたちとプレイしていくのがこのゲームの基本的な流れだ。

 もちろん、『人狼』と同じように、役職があり、推理とコミュニケーションによってゲームは進行していくが、リアルのそれとは違い、ゲームの参加者の発言はスキル・コマンドという形で実行される。特定の誰かを攻撃するか、あるいはかばうか、そして誰かの発言に乗じるか、それとも反論するか。このスキルの強さは、各キャラクターの能力に依存しており、主人公はレベルを上げることによって、よりゲームの主導権を握れるようになる。この部分は非常にRPG的であると言える。

 しかしこれらの要素は決して、人狼ゲームとしての『グノーシア』の魅力を損なってはいない。

人狼ゲームとしての『グノーシア』

 『グノーシア』が大きく『汝は人狼なりや』と異なる点は、能力値の概念の他には以下のようなものである。

・主人公が冷凍、あるいは消滅した時点でゲームが終了する。

・最初潜伏して後から対抗COや、狼側(グノーシア)の狐(バグ)告発などが無い

 このうち前者は、『人狼』というチーム戦を考えたとき最も問題になる点である。死んだ時点ですべてが終わってしまうのだから人柱などやってる余裕はないし、騙りが失敗した時などに試合展開を最後まで見ることが出来ずに終わってしまうことは多い。これは周回による能力値の上昇で大体解決できる。吊られにくくする「かわいさ」、噛まれにくくする「ステルス」という能力を十分上げれば、論理の破綻以外では中々死ななくなる(それはそれでどうなのという気はするが)

 このような相違点を除けば、『グノーシア』は非常に『人狼』に忠実に造られている。役職は十分なものがそろっているし、キャラクター達もしっかりと考えて投票したり騙ったりする。破綻とか自己視点とかちゃんと守るのでそこらへんも結構『人狼』プレイしている感を得られる(たまに好き嫌いで投票が決まるが『人狼』とか結局はそういうゲームなのかもしれない)。最終日まで生き残れないと勝敗が分からない分、勝利の喜びもかなり大きい。

 役職ごとの重みが微妙に『人狼』と違うのも新鮮さがあって良い。例えば、『人狼』においては勝率最低の「妖狐」枠である「バグ」は、狼による告発がなく、また2占進行でも容赦なく最初から吊りにいく関係から体感生存率が高い。特に「かわいげ」の高いイルカとククルシカ、SQ辺りが「バグ」の際吊れずに負けまくって発狂していた。「哀しむ」とかいうスキル強すぎる。

 逆に、騙りの自由度が高いことからみんな大好き「狂人」枠である「AC狂信者」は、プレイヤーで勝利するのが最も困難な役職である。最後まで生き残らなければならないからだ。

 そして個人的に気に入っているのが「村人」枠である「船員」だ。『人狼』における「村人」の役割は大体以下のようなものだと私は認識している。

・吊られることで潜伏する村役職を守る

・噛まれることで潜伏する村役職を守る

・勝負を決める場面まで生き残った時、騙りを見破り、人狼を見つけ出し勝利する

 割と重要な「村人」だが、すぐ死んでしまうだとかやることないだとかで好きでない人も多いのかも知れない。しかし、『グノーシア』ではレベルさえ上げれば死なない「村人」が出来るのである。あくまでも素村の視点から、真の役職を見ぬき、大衆を扇動し、狙い通りに一人ずつコールドスリープさせていくのはえも言われぬ快感である(たまにやりすぎて吊られるか噛まれる)。

 また、回数を重ねてプレイしていくうちに各キャラクターの個性が見えてくるのが面白い。例えばしげみちというキャラクターは余りにもウソが下手で、人外をやると大体騙った瞬間にウソを見破られてものすごい投票を集めて沈んでいく(味方になると軽く絶望する)。逆に夕里子というキャラクタ―は能力値が高く、敵に回すと恐ろしいが故に、大体村側の時は早めに消滅させられてしまう。このような個性を掴んでいくと、通常の『人狼』の進行とは別に、こいつがここまで残ってるのが怪しいだとか、こいつとこいつはかばい合ってるから怪しいだとか、嘘を見ぬきやすいキャラが疑ってるからこいつが怪しいだとか、『グノーシア』ならではの戦い方をできるようになっていく。

 このような側面のため、慣れてしまうとゲーム展開がワンパターンになりがちではあるが、そこはイベントによって縛りが追加されたりなどでしっかりとケアされている。何より、多分グレランするよりマシ。

ループものとしての『グノーシア』

 ここまで『グノーシア』の人狼ゲーム部分(討論部分)について語ってきた。『グノーシア』は一人用人狼シミュレータであることに重きを置いており、物語の部分はあくまで控えめなボリュームである。しかしそれは『グノーシア』が物語として優れていないということを意味しない。

 『グノーシア』は特定のキャラクターが、ある一定の期間を繰り返し体験するという要素を盛り込んだ、俗に言うループものである。その中でも特異な点は、読み手(プレイヤー)が主人公の繰り返しを同じ情報量で追体験することにある。

 ループものが何たるかについては下手に手を出すと火傷するので多くは語らない。しかし、ここではループものが何故面白いのかについて考えたい。

 そもそも物語を面白く感じるのはどのような時か。それは読み手が物語に対して何らかの発見を見出す時であると私は考えている。恐怖の源泉である未知を、自らのまなざしを通して理解し、自分の一部として支配する。そこには「知る」という行為の根源的快楽がある。

 物語の面白さをそう仮定した時、ループものはある決まった期間における舞台、登場人物が持ちうる可能性を、反復と差異を通して徹底的に発見しようとする試みであると定義することが出来る。現実では、全く同じ瞬間は二度と来ない。「在りえるかもしれない未来」は、「在りえたかもしれない未来」になった瞬間に全くの無意味になる。だが、反復する時間の中ではそうではない。ある限定された時間における可能性を、全て試行し、発見することが出来る。ループものの物語としての面白さはここにある。

 例えば小説の登場人物が七日間を反復的に三回体感するとしよう。それはどのような紙幅となるか。最初の一回目が百ページとすれば、二回目は三十ページで、三回目は十ページだろう。全く同じことを体験するのは人間にとって苦痛だからだ。大抵の場合ループものはループ中、前のループと同じことは「前のループと同じだった」と書いて済ませ、差異のみを描く。あるいは、「そうして百万回のループが過ぎ去った」だとか。実際に同じことを同じ情報量でやれば某アニメのエンドレスなんちゃらみたいになるわけだから当然だが。

 しかし『グノーシア』では違う(本題)。1ループは1ゲームであり、主人公が持つ情報量は、プレイヤーが持つ情報量とほとんど同一である。つまり『グノーシア』は短時間で『人狼』が遊べるゲームであると同時に、ループものを自分の分身とともに体感できるゲームなのだ。そこには反復への嫌悪があり、差異への喜びがあり、そして発見の楽しみがある。味方となったり敵となったりしながら、一癖も二癖もある登場人物たちにどんどん惹かれていくのも、『グノーシア』の構造が影響しているのだと思う。

 ちなみにこのタイムループ体験的な面では『グノーシア』における「もう一人の時間遡行者」が大きな役割を果たしている。時間遡行者の孤独が扱われる作品が多いためか、こういう相棒的なのがいるパターンのループものは初めてやった。正直好きにならないわけがない。

SFとしての『グノーシア』と所感

 大体これ以下は(「これ以下も」かもしれない)ただの小学生並みの感想である。『グノーシア』はループもの抜きにして単純なSFとして読んでも面白い。当然のように登場する汎とかいう性別からも分かる通り、作品全体にSFへの愛が感じられ、それが独特の雰囲気を作っている。コールドスリープや消滅といったワードからも分かる通り、『人狼』のグロテスクさは極力抑えられ、代わりに宇宙空間という舞台が持つ哲学的冷たさ(何を言ってるんだこいつは?)を感じられる雰囲気がある。

 ゲームの進行とともに登場人物たちの設定が明らかになっていくのだが、これがまあ奇妙な人(?)ばかりであり、一人につき一本の短編小説を書けそうなレベルである。全ては語られず、断片的に提示されるだけだが、その一つ一つの設定とかキャラクターを作者が大切にしていることが随所から伝わってくる(グノーシアになると一部キャラは顔芸するけど)。個人的にはラキオとかコメット周りの設定がすごくSFっぽくて好きだった。

 というか敵になってムカついてたキャラはいたけど(大体頑張って勝ったらバグに持ってかれた時)全体を通して嫌いなキャラがいない。個人的にダンガンロンパとかと大きく違うところはそこだった。

 終わり方も鮮やかでこれ以上なくすっきりするエンディングだった。ノーマルエンドでもやもやさせておいてトゥルーエンドで鮮やかに伏線を回収するのは定番とは言え何度味わってもよいものだ。

 真エンドまで見て129周、lv141でクリア。ボリューム的にはやや物足りない部分はあったが、自分の中で好きなゲームの一つになった。

フィリップ・K・ディック『ユービック』

 

疲労と冷却は、いずれやってくるわ。でも、そんなに早くじゃない

――エラ・ハイド・ランシター

 

 ディックの世界では必ずしも時間は前に進むとは限らない。

 11人の反予知能力者と、グレン・ランシター、ジョー・チップが爆発に巻き込まれた時から、時間退行は始まった。持っている硬貨や煙草はいつの間にか古く干からびたものとなり、あらゆるものは衰退し、いつしか1人また1人と仲間は死んでいく。ジョーは、そんな現象に立ち向かいながら、その正体、そして対抗するための鍵となる「ユービック」を探し求める。

 以上が簡単な『ユービック』のあらすじとなるが、この説明が物語の本質を捉えられているとは言い難い。『ユービック』が描くのは、超能力者とそれを妨害する能力を持った人々が争っており、また半生者と呼ばれる死を延長した人々がいるなど、非常にSF的独創に溢れた世界である。そのような特殊な世界でさらに特殊な物語が進行するため非常に話の本質が分かりにくい。しかしそこに仕込まれた物語の転回を読めば驚くこと請け合いである。

 1つ、この作品を読むに前提とするべきこととして、この世界における時間退行は若返り、或いは新しくなることを意味しない。むしろ退行はそれ自体が衰退であり、老化である。時間は、後ろに戻るのではなく、後ろに進むのである。その結果、退行の影響は「老い」のように例えられ、退行の犠牲者は「子供でしかありえない姿」で風化して死亡する。「第二の幼子の時代、完全なる忘却、歯もなく味もなく目もなく何もない」(『お気に召すまま』)とシェイクスピアが言う通り、幼児は時に老人と同じ位相にある。

 ここで問題が生じる。退行と通常の時間進行は確かに衰退の速度が違う。しかし、いずれ朽ち果てるという点では全く同じである。では、果たして現実の世界と退行世界は何が異なるのか?

 そう考えたとき、物語終盤におけるジョーの選択が普遍的(ユビキタス:おそらく「ユービック」の由来)な意味を持ち始める。物語の中枢にかかわる為詳細は省くが、ディック特有の衰退と死に向かい続ける世界と、その中を「生きる」人間、そして確かだったはずの現実が簡単に崩壊してしまう衝撃を詰め込んだ、ディック定食半チャーハン餃子付きみたいな作品である。