ケムコ『レイジングループ』

狂気の因習にまみれた集落で、殺人儀式「黄泉忌みの宴」に「死に戻り」の男が挑む!

 

概観

 恐ろしいは面白い。鮮烈で、グロテスクで、悍しいものに人は惹きつけられ、魅了される。そこには未知と、その真実を知り、理解したいという強い欲求があるからだ。人狼×和風伝奇アドベンチャー『レイジングループ』は、そんな恐怖に立ち向かう快楽を存分に味わえるADVゲームである。

 主人公、房石陽明はバイクで事故って山奥のいかにもな村のいかにもな集落に迷い込む。そしていかにもな因習といかにもな怪奇現象に巻き込まれ、何度も死んではやり直し、真実を追い求めていくことになる。

 よそ者を嫌う集落、休水で房石が巻き込まれるのは以下の三つの現象である。

1. 村全体が濃い霧に囲まれ、脱出することができず、夜外出した人間は「ケガレ」と称される何かによって殺害される(クローズドサークル要素)

2. 霧が出ると休水の住民は言い伝えに従い、人間になり変わったとされる「おおかみさま」を葬るため、1日に1人住民を選んで殺す「黄泉忌みの宴」を執り行う(人狼要素)

3. 房石陽明はゲームオーバーになると、その記憶をもったまま最初からやり直す(ループもの要素)

 金田一を彷彿とさせる古き因習と繰り広げられる惨劇、そしてループ要素など面白い要素しかない。実際とにかく話が面白い。

 ADVゲームとしてはどうか。前述したとおり房石陽明は死ぬまで記憶をある程度持ち越すことができるため、違った展開を引き起こすための情報を入手することができる。その情報によって新しい選択肢を選ぶことが可能になり、物語が進行していくというのが『レイジングループ』の大まかな流れとなる。チャート機能が充実しており、好きな地点にいつでも飛べる上、ゲームオーバー後のヒントも完備されているため実際選択肢で困ることは一切ない(初見殺しというか1デス確実に持ってくパターンが多いためプレイヤーはループしてる感はない)。ルートはだいたい3-4くらいで多くはないため、そこら辺は多少ループ設定と齟齬が出る。

 いやしかしそんなのはどうでもいいほど話が面白い。房石陽明は知的かつ論理的で、好奇心旺盛である。何より恐怖に対する頭のネジが数本トんでいる。そのため、実際に行われる人狼とかいうとんでもない風習にすぐに適応し、真実を求めて尽力していく。かなり独特な文章だが、不快感はそれほどない。むしろ深まる謎と徐々に明らかになる真実にどんどん引き込まれていく。何よりなかなかの特殊設定である「黄泉忌みの宴」を彼がどのように攻略していくかというのは本作の醍醐味の一つである。なおこれ以下はそれなりのネタバレが混じる。

 

黄泉忌みの宴

 霧が出ると黄泉から「おおかみ」が人に扮して現れ、夜な夜な人を襲う。これに対して村人は「へび(占い)」「からす(霊能者)」「さる(共有者)」「くも(狩人)」の加護を借り、1日に1人疑わしい人間を「くくる」(吊り)ことによって抵抗しなければならない。要は人狼を和風に解釈して実際に死ぬ仕様になった宗教儀式である。再現度は非常に高く、例えば前項で述べた「ケガレ」による死はネット人狼における「突然死(ルール違反や放置によるペナルティ的死)にあたる。

 しかし、「人狼」のセオリー(騙り出たら対抗とか、初日COとか)は通用しない。これが「黄泉忌みの宴」の最大の特徴の一つである。開始当初、基本的に村人は身内で殺し合いを行うことに消極的である。「人狼」ではあり得ないが、「黄泉忌みの宴」では話し合いの結果、人を処刑しないという選択肢が許容されうる。ここにあるのはルールを超えた個人の感情である。これが「人狼」のセオリーを狂わせる。実際、「宴」中の選択肢のうちには意図してセオリーを外さないと死ぬパターンが多い。

 そもそもルール外の殺し合いが発生しまくる。一応ペナルティはあるが逆に言えばペナルティ覚悟で殺人とかもできてしまう。というか実際にやるやつばっかである。

 忠実に「人狼」を再現しておきながら、「人狼」のようにはいかない展開の意外性は、作品を通してプレイヤーを楽しませてくれる。

 房石陽明は主に二つのパターンで「黄泉忌みの宴」に関わる。半分くらい進めたところで大体察すると思うが、それぞれへび(占い)の場合とおおかみ(人狼)の場合である。

 このうち前者は完全にズルである。何度も試行できる占いなどゲームをぶっ壊している。では簡単に勝利できるかというと、そうはいかない。ただでさえよそ者である房石が生き残るのはそう簡単なことではない(というか死ぬのは大体全部約1名の問題児の個人的偏見のせい)。一番人狼のセオリーを外しているルートであり、そのような戦略が求められる。

 後者の場合は、作品根幹に関わる重要な真実(謎)、なぜ狼が人を殺すのかに迫るルートである。個人的には最も「人狼」性を強く感じ面白かったルートだった。誰を噛み殺すか、誰に投票するか、一つ一つの選択が彼の命運を分ける(命運を分けない選択の方が少ないのだが)。強力な村人をいかに騙すか、誰を先に消すのが最良かなど、「人狼」の醍醐味がこれでもかというほど感じられる。そしてヒロインが可愛い。

 『レイジングループ』は「人狼」を取り扱ったゲームでありながら「人狼ゲーム」ではない。「人狼ゲーム」の面白い部分を抽出し、利用し、相対化し、皮肉り、裏切った欲張りなゲームなのである。

16人の登場人物

 「黄泉忌みの宴」には房石含め最大16人が参加する。彼らは非常にユニークな人物であると同時に類型的な人物でもある。回末李花子とかいう巫女装束風の女から始まり、村のしきたりにうるさい老婆、頑固で屈強な老人、優男風で学ランの少年、インテリ気取りの長者の次男坊などいかにもな村と惨劇にふさわしい人物ばかりである。正直言ってビジュアルも含め、どこかで見たようなキャラばかりだ。

 だが、ありがちなキャラであることはつまらないキャラであることを意味しない。「人狼」としてのセオリーから外れる時、そこには惨劇に巻き込まれた人間としての人間性が表出する。これを大切にして、丁寧に描き切ったことが、『レイジングループ』をどこかで見たような作品でありながら、どこで見たものよりも面白い作品にしている理由の一つだ。

 登場人物たちは時に疑わしきの首を吊り、時におおかみさまの勝利のために村人を惨殺する。そんな狂気的な行為とは裏腹に、村人たちが同時に善良な人々であることも強調される。例えば作中で房石が人狼だと明らかになった人物の四肢を切断することを提案した時、村人たちは「なんて残酷な行為を」と猛反対する。これは伝承によれば縊死させることこそが救済であり、彼らなりの正しさをもってそれを実行していることを示す。それは惨劇が狂人によるものではなく、あくまで善良であろうとする人々によるものであることを示す。

 『レイジングループ』の人物が持つこうした二面性は、多くのサスペンスの殺人者が持つ構造とは逆である。普通に見える人間の裏に殺人的狂気が潜んでいるのではなく、狂気的な行為を平然と行う人間たちが、どうしようもなく普通の人間なのである。個人的にはこのような世界も相まって、某京極堂の「殺人は狂人が行うのではない」という持論を思い起こさせる。

 『レイジングループ』はこのような命題を、各登場人物の個性を犠牲にすることなく見事描き切っている(時にある種のADVにありがちな「悪ふざけ」に走るが)。村の因習による殺し合いという悲惨なテーマでありながら、単なる悪趣味で終わらせていない理由の一端は、彼らにある。

そこそこ信頼できない語り手、房石陽明

 登場人物の中で最も特異な人物、それが房石陽明である。彼はADVの主人公として活躍する、頭のネジがぶっ飛んでいるタイプの「狂人」として類型化することができる。だが彼の真の異常性はその裏にある。問題は彼が「黄泉忌みの宴」に対して「読者視点」で関わりながら、その情報を本当の読者に開示しないことだ。

 彼は冒頭、「黄泉忌みの宴」のルールを知り、勝利のためには初日から吊りを実行しなければならないことを提示する。これは極めてゲーム的な考え方だ。もちろん、「人狼」というゲームを知っていて、この部分を読んだ読者は即そのことに気づくだろう。だが房石陽明という都会から迷い込んだ来訪者のことを考えた時、明らかに異常な儀式で、内部の人間すら否定的な処刑を、初見の外部の人間が提案するのははっきり言って異常だ。こんなことは命を命として見ていない人間の行動である。例えば、自分の操作キャラを動かすプレイヤーのように。

 房石陽明の行動はほとんどの場合プレイヤー的、あるいは読者的である。常に現状の状況を、あり得る可能性を全て使って「攻略」しようとする。しかし、実際にはその思考が語られない部分が多く存在する。これが房石のもう一つの異常性である。限りなく読者に近い存在でありながら、読者と明確な断絶を示す。「暴露モード」で明らかになるが、後から明らかになる山ほどの真実ははっきり言ってズルの領域だ。これが物語の展開を類型的でありながら、非常に不確かで魅力的なものにしている。少なくとも自分としては、強く印象に残る主人公だった。

チラシの裏

 以下誰も得しない小学生並みの感想。ネタバレ全開。

 風呂敷を広げまくってる割には奇跡的にたためてる。暴露モード+EXエピソードでギリギリ回収してるからやり方的にはかなりズルい。正直書きたいこと詰め込みすぎ。完成してるから文句ないが。

 基本的に面白さの暴力。ゲームで平日に徹夜とか大学生か。ゲームは一日一時間(戒め)。

 基本的にキャラ大体全部好き。特に能里の次男坊さんが好き。特に暗黒ルートの最後の方の処刑寸前のセリフには惚れた。人狼とかいうゲーム一生やっちゃいけない人間なだけでめちゃくちゃいい人だろ。

 巻ちゃんさん可愛いすぎる。いやこのキャラだけ特に設定が狂ってる。属性詰め込みすぎ。でも好き。房石さんに一番お似合いなのは千枝実さんだと思うけど。相性が良すぎる。

 オチはズルかズルじゃないかでいうとはっきり言ってズル。あらゆる問題は夢オチ、幻覚、科学技術で解決する。みんな知ってるね。だけどまあ許せるレベルのズル。はよ続き出せ。

 民俗学的側面も良かった。信仰関連はメインテーマなだけにかなりちゃんと考えられていると思う。ジンクスとかいうのもアイデアとして面白い。

 クリアまで40時間くらいを三日でやりました。不思議だね。面白くてやめられないとかいう拷問を受けた。もう仏舎利ロック再生するくらいでしか起動しないと思う。