Jamey Stegmaier 『サイズ:大鎌戦役 (SCYTHE)』①概要・アクション

「サイズ」は1920年代のもうひとつの世界の舞台にした、重量級4X(探検・拡大・開発・破壊)ゲームである。
そこは農業と戦争の時代、そして傷ついた心と古びた兵器、発明と勇気の時代であった。

欧州に積もる雪は人類最初の世界大戦の灰で黒ずんでいた。
かの大戦に重装甲兵器《メック》を送り込んだ「ファクトリー」と呼ばれる大都市国家はその門戸を閉ざし、近隣国家に注視されていた。
戦場へと赴く五カ国のうち、自分の帝国を東欧の支配者にまで成長させ、富と名声を得るのは誰か?

概要

 人生で一番好きなボードゲームは何かと聞かれれば、今のところはおそらく「サイズ」と答える。私にとってはそういうゲームである。初めて遊ばせてもらった時の興奮は忘れられない。巨大なマップに、自らのメックを展開し、動かしていく楽しさ、優れたアートワーク、凝った設定など、このゲームには重量級ボードゲームしか持たない喜びが詰め込まれている。

 去年初任給で拡張の2国と共に購入し、狂ったように毎週遊び、基本5国家での勝率が安定してきた気がするので、ゲームについて考えたことを残しておく。(ボドゲ界隈は本当に頭のいい人が多く、私のような粗忽者が書いたものに価値などないのだが、忘れてしまうのも勿体ない気がしたため、備忘録程度に残しておく) 

 「サイズ」とはどのようなゲームか。プレイヤーは、自分の国の代表である「キャラクター」とともに、「ゲーム目標の達成」「支配領土の拡大」「資源・資金の獲得」によって、ゲーム終了時に最も強大な国となることを目指す。そのためには、ただ他国に攻め入るための軍事力を獲得するだけではなく、拡大生産を行ってより強力な能力を開放していく必要がある。タイトルである鎌は、武器でもあり、収穫の道具でもあるといった点でこのゲームを象徴している。まずこの戦争と生産の駆け引きが面白い。

 多分こんな意味不明な説明よりもインスト動画を見たほうが早い。


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 このゲームが特に秀逸な点はもう一つある。各プレイヤーが各ラウンドで行えるアクションは、アクションマットに記載されている、4つのアクションに限られる。それぞれ上段のアクションと下段のアクションに分かれており、その組み合わせはボードによって異なるが、種類としては4+4の8種類の行動に限定されている。そのためこのゲームは非常に複雑に見えて、やること自体は4つのエリアのうちの一つを選ぶという風に、単純化されている。(もちろん、そのアクションによって実際に何を行うかは考える必要があるが。)これには、複雑なゲームの中で、次に何をすればよいのかをプレイヤーが考えやすくすること、各プレイヤーの選択肢を可能な限り平等にしながら、ゲームごとに違ったプレイ体験を与えるといった二つの効用がある(気がする)。

 とにかく、このゲームは百回説明を聞くより一度触ってみたほうが早い(じゃあ何のために長々と小難しいセリフを並べたんだ?)。移動の複雑すぎるルールを除き、プレイ自体は重量級ゲームにしては驚くほどスムーズにできることに気が付くはずである。

 なお値段は一万円越えでサイズ(激うまギャグ)は馬鹿でかいと物理的には全然遊びやすくないが、ありがたいことに2000円(お値段なんと1/5!)でSteamで電子版が発売されている。チュートリアルまであり、初心者にもお勧めできる内容となっている。欠点といえばNPCがあまり強くないくらいだ。勝てるようになってきたくらいで人と遊べばより楽しめる。

 

アクションについて 

 閑話休題。ここから先はやったことないと意味不明な内容。このゲームの中核を成すアクションには、おそらく強弱がある。もちろん各行動によって得られるリソースは原則として排他で、ゲームとして不要なアクションは存在しない。

 しかし「サイズ」のアクションには二つの強弱があると私は考えている。

 一つは、ゲームとして設定されている、下段アクションによる獲得金額の大小だ。すべてのアクションボードにおいて、上段アクションは同一であるが、下段アクションはコスト・獲得金額が異なる。下段アクションはいずれもゲーム目標(星章)に直結しているが、1金=1点となるルール上、当然より多く金を獲得できるアクションが圧倒的に強い。3金もらえるアクションを4回やるのと、0金のアクションを4回やるのとでは12点も差がつく。これにはプレイヤーが目指すべき目標をゲームごと(=アクションボード)ごとに変化させ、ゲームプレイを単一化させない狙いがあると思われる。よってプレイヤーはまず、3金・2金獲得できる下段アクションをいかに効率的に行って星章を獲得するかを考えるべきである。このゲームは誰か一人が星章を6個獲得した時点で終了する、競争のゲームでもある。残念ながら1ゲームで実行できる下段アクションの回数は限定されている。ちなみに、拡張ボードとバランス型の機械主義を除き、3金獲得できるアクションは資源を生み出さない「増強」の下段となっている。

 二つ目は、純粋なアクションとしての強弱。各アクションでやることの種類が違いすぎるため、均一でないのは当たり前だが。まず下段アクションはいずれも最大回数まで行うことで、星章を獲得できるのだが、その最大回数が異なる。「展開」「建設」「徴兵」が4回で星章獲得できるのに対し、「改良」は6回必要となる。1ラウンドで行える下段アクションは1つであり、同じアクションは連続で選べないというルールから、より手番がかかる「改良」は星章獲得には不向きという点でほかのアクションに劣る。(ただし、他のアクションが4回しか行えないのに対し、「改良」は6回行えるとも考えることができる。これは下段アクションによる資金獲得を考えたとき、有利に働く。「展開」3金「改良」0金のボードが下段で獲得できる資金の最大は24金だが、「改良」が3金のボードが下段で獲得できる資金の最大は30金である。ロングゲームでは有利に働く、かもしれない……)また、「建設」は、他のアクションに比べ「ワーカーが存在していて、施設がない場所に置かなければならない(同じ場所に2回おけない)」という点で不利である。「建設」だけ最大数行うためには資源を生み出すアクションとは排他の「移動」アクションを強制されるからだ。

 とりあえず下段としては「展開」「徴兵」が強く、これが3金・2金のボードが最強ということになる(本当か?)。ルール上ボードはランダムで配布されるため、あまりに気にしてもしょうがない部分であるが、下段アクションの優劣は行動方針として頭に入れておいて損はないはずである。個人的には上記の優劣は、獲得金額の大小>>「展開」「徴兵」の強さと捉えている。資金が弱いアクションはファクトリーカードで補えばいいが、アクションの資金は補いようがない。1金=1点はあまりにも重すぎるし、このゲームは下段アクション以外に案外資金の獲得手段が少ない。資金をファクトリーカードで補う手もあるが、通常の下段が星を生み出すのに対し、ファクトリカードは戦闘星章しか生み出さない。資金を生み出せるファクトリーカードは打った回数にかかわらずどんな国にとっても基本強く、人気である。(あくまで下段による資金獲得の代替にはならないだけである)

 最後に、各アクションについてメモ書きを残す。()は改良スロットを指す。

上段アクション

交易

コスト:1金

獲得:任意の資源2つ→ワーカーのいるマスor民心1(+1)

 序盤のスタートダッシュや自国で生産しにくい資源が必要な際に行うアクション。1点を支払っている以上、決して好んで打ちたいアクションではないが、下段を効率よく行うためには必須の上段アクションでもある。特に、初手生産で出した資源1と同じ資源を2つ出して、資源コスト3の下段アクションを2ターン目か3ターン目に打つ動きが強い。また、下段を資源コスト2まで改良すれば1手番で上段と下段が完結する。下段が0金or1金アクションが多いのが玉に瑕。民心獲得は最終手段。

生産

コスト:ワーカーの数により変動(4人以上:1戦力/6人以上:1戦力,1民心/8人:1戦力1民心1金)

獲得:2(+1)区域指定→[存在するワーカー]個の資源

 おおむね最強の上段アクション。「サイズ」というゲームの中核。中盤の優位はいかにこのアクションを効率よく行ったかで決定する。大体生産の下段は行うべき。生産→その他→生産→その他で下段アクションのループを組めると強い。ただし、生産の下段が終わるころにはほぼ全ての生産が終わっているべきである(原則として、下段の存在しない上段アクションは弱い)。

 特徴としては、2区域指定であること。つまり生産アクションを行う間、ワーカーは2区域のみに固まっている方が強い。(そしてこれが3金と2金のアクションを優先して行うべきと主張する理由である)。

 ワーカーの増やし方は最初1人を村に移動させ、2回の生産で2→3→5と増やすのが移動の回数的にもコスト的にも合理的(場合によって3で止めてもよいが)。

 また、唯一他者への干渉なしに確実に星章を獲得できる上段アクションでもある(ワーカー8人)。5→8と増やすと戦力1のコストで最大まで増やせるので多分強い。これが生産を下段打ち切った後だらだら続けるべきでないと主張する理由。ワーカー8人の状態は「生産」アクションがゴミになることを除けば非常に強いと思う。

増強

コスト:1金

獲得:戦力2(+1)or戦闘カード1(+1)

 資源を生み出さないのであまり打ちたくはないが、下段が強かったりそもそも戦闘のために戦力が必要だったりで打つ必要はあるアクション。このアクションの下段を行うかどうかで自国の戦力の平均値が決まる。戦闘したい国家でこの下段が弱いとかなりげんなりする。「徴兵」のカード獲得能力があまりにも高いため獲得も「改良」対象も戦力優先の印象。実際2と3ではかなり差が出るので、「改良」の時は「移動」とならんで最優先にしている。直接点数には寄与しないが、戦力の維持は実はかなり重要な気がする……。

移動/獲得

コスト:なし

獲得:2(+1)ユニット1マス移動or1(+1)金

 最弱にして最強にして「サイズ」で最も難しいアクション、それが移動。難しすぎていまだに何もわからない。なぜ最弱かというとこのアクション単体は何の価値も生み出さないから。後続の戦闘、遭遇、「生産」、「建設」、「目標カード達成」、領土保持(ゲーム終了時)につなげて初めて得点になる。逆に言えば上記をやらないときには一切やりたくない。手数を減らすうえで最も合理化の必要があるアクションである。同時に、後続の上記につなげることで1手番で獲得できる点数が最も多い最強のアクションでもある。特にワーカーを移動の途中で下すことができるため、区域拡大による点数獲得能力が異常。「移動」によって6個目の星章を獲得するのがこのゲーム最強の終わらせ方である。(まず6個獲得するのが難しいというのはご愛敬。6個獲得した人間の最大のアドバンテージがこれである)

 以上は理想的な動きのみを考えた場合の話。問題は相手も同様に動き、戦闘をしかけてくることにある。この駆け引きが限定されたアクションの繰り返しでありながら、「サイズ」に無限の深さを与えている。移動を制する者はサイズを制するといっても過言ではない。

 獲得はまあ長引いて本当にやることなくなったら使えるかもしれない(使えるとは言っていない)。ただこのアクションが存在すること自体には重要な意味があり、上段アクションのコストが完全に支払えなくなったときに詰まないようになっている。こういうことに気を払える設計者になりたい。

 

下段アクション

展開

コスト:鉄1~4個

獲得:メック1台→ワーカーのいるマス、0~3金

 「サイズ」の花形、それがメックを生み出す「展開」である。下段アクションはいずれも一つのアクションで二つの効用を生み出す。「展開」が生み出す効用はメックユニットの配置と、メック能力の解放である。後者は国固有の面がかなり大きいが、「渡河orテレポート」「移動強化」あたりは共通してゲームを大きく進める能力である。というかこれがないと始まらない。そしてメックユニット自体も強力。まず戦闘ができるユニットは原則として多ければ多いほど良い(というかユニットはすべて多い方がいいが)。そしてワーカーを乗せて移動できる能力は、生産の合理化・手番の圧縮に大きく貢献する。正直「サイズ」はメックを出して遊ぶゲームといいたくなってしまう。しかし前述した通り0金の場合は弱いので何台出すかは財布と相談になる。個人的には2台は必須、残りはファクトリーカードで出せたら出すようにしている。実際出さなくても勝てはすると思う。

 ちなみにデザインは国ごとにユニークですごく良い。これ「展開!」って言って出して動かしてるだけで楽しい。

徴兵

コスト:食糧1~4個

獲得:徴兵1回(新兵1人)、0~3金

 「サイズ」の問題児、新兵トークンを動かす「徴兵」。このアクション最大の魅力は、唯一継続的かつ他人の手番にもリソースを得られるアクションであるということである。

 効用の一つ、獲得時ボーナス。こちらは実行時に戦力・民心・金・戦闘カードのうちいずれかを二つもらえる(一種につき一回)。序盤の戦力補充に加え、得点源である金、重要なリソースでありながら獲得しにくい民心を得られるとまあ言うことなく強い。

 二つ目、継続ボーナス。こちらは解放に対応する下段を自分もしくは両隣のプレイヤーが行った場合、リソースを獲得できる(「展開」→1金、「徴兵」→1戦闘カード、「改良」→1戦力、「建設」→1民心)。まず、自分の行動にも反応するのが強い。周りがやらなくても徴兵から解放すれば4回やって3枚+2枚の戦闘カードがもらえる。これだけあれば充分に戦闘できる。また重要な「展開」で1金もらえるのも強い。自分の「展開」も含め、「徴兵」だけはたとえ「徴兵」自体が0金だとしても、「展開」より先に実行し、メックを4台出せば最低2+4金、最大2+12金ももらえるのだ。正直単一のアクションとして強すぎる。得点獲得能力もそうだが、このアクションを実行しているかどうかで継戦能力が明らかに違う。正直、0金でも実行したいアクションになる(もちろんファクトリーカードによる実行したいアクションでもある)。

 ただし、このアクションは時間経過とともにアクションの価値が下がっていくという特徴がある。資源・資金の都合から早期の実行が難しいようだったら、潔くあきらめるのも一つの手である。後半になって固執するとろくなことにならない印象である。多分それでも頑張れば勝てる。多分。

建設

コスト:木材1~4個

獲得:施設1つ→ワーカーのいるマス、0~3金

 とにかく「移動」が要ることで割を食っているアクション。1回打つの2.5手番くらい必要な印象。効用は「上段アクションの強化」と「他国に支配されていない区域の領地化」の二つ。後者は無いようなものなのでメインは前者。今考えると建物が4種類あってそれぞれ効果が違うのはいかれている。

兵器庫:「交易」強化、「交易」を打つたびに戦力1獲得

風車:「生産」強化、「生産」を打つたび風車から対応する資源1を獲得

記念碑:「増強」強化、「増強」を打つたびに民心1獲得

鉱山:「移動」強化?、トンネル区域と自由に移動できる

メックを出さずに川を渡れる鉱山の他に、打つ回数が増えがちな「増強」によって、不足しがちな民心を確実に獲得できる記念碑は体感強い。風車は使えそうだが、活かせたことは今のところ一度もない(大体出せるころには「生産」が終わっている)。兵器庫はないよりはましだが、ありがたく感じるくらい「交易」していたらおそらく金欠で負ける。

 製作者も「移動」が必要という欠点はおそらく認識しており、建造物には特定の区域に建てることによるボーナス点が存在している。この点ではアクション自体が点数につながらない「改良」よりはるかに強い。

改良

コスト:油2~3個

獲得:改良1回、0~3金

 重要だが、何回実行するかを決めるのが難しいアクションでもある。効用は単純明快で、「上段アクションの獲得強化」「下段アクションのコスト軽減」の二つである。ワーカーの数によってコストが決められている以上、基本的に後者がメインとなる。つまり、「改良」コスト軽減によって下段のうち2つのアクションの計コストを5にし、ワーカー5人で「生産」を賄うのが強い(「生産」→「その他」→「生産」→……で毎ターン下段アクションを打っている)。が、これを行うのにオイルが4~6個必要だったり、「改良」自体は何も生まなかったりで、実行するタイミングは難しく感じる。そもそもこの分のオイルを出すパワーで必要な資源を出してしまう方が早い場合もある。(不足分は「生産」の回数を増やしたり、「交易」で賄う手もある)。だが上段の強化も魅力的なので難しいところ。特に「移動」ユニット増加と「増強」戦力増加は優先的に開放したい。逆に言えばそれ以降は取って嬉しいものがない(※個人の感想です。「改良」の強さには個人差があります)。また下段アクションの回数は限られているため、「改良」も「徴兵」と同じく時間経過によって価値が下がる。

 いずれにしても何回実施するかは最初に決めておき、ブレないようにしたいアクションである。ただし、資源が余っている場合は積極的に行いたい。人から奪ったオイルでやる「改良」最高。

 

 こうして列挙してみると、いかにこのゲームの奥が深いかがよくわかる。このゲームは究極的には上記のアクションの組み合わせしか行わないが、上記で自分が「サイズ」について考えていることにすら半分にも及ばない(国の固有能力と移動のせいだが)。いわんや、ゲーム自体の奥深さをや。せっかくこのゲームを遊ぶ機会に多く恵まれているので、考えたことは都度出力していきたいなと思った。布教は使命。