Sukeban Games 『Va-11 Hall-A』

一日を変え、一生を変えるカクテルを!

概観

 腐敗した政府と、大企業によって牛耳られた街、グリッチシティ。その片隅に、「ヴァルハラ」と呼ばれるバーがあった。

 そんな感じで始まりそうなサイバーパンクバーテンダーアクション風ADVゲームが「Va-11 Hall-A』だ。プレイヤーは主人公ジルとなって、次々と訪れる個性豊かな客に要求通りのカクテルを提供したりしなかったりして、時にそれが人生を変えたり変えなかったりする。

 概ね、要求通りのカクテルを出していれば各エンディングが解放される造りになっているが、時折脳内当てゲームの出題者がやってくるため初見で全部正答するのは無理に近い。

 カクテルを提供し、客の話を聞く。『Va-11Hall-A』はほとんどただこれだけのゲームである。しかし、舞台となるグリッチシティはある種の人間にとって、特別な舞台だ。例えば、超法規的な大企業、ナノマシン、アンドロイド、自警団にテロリスト、ハッカーの都市伝説とゴーストといった言葉に胸躍らす人にとっては。

 

サイバーパンクと『Va-11 Hall-A』のイミテーション

 例によってサイバーパンクの定義については戦争を引き起こしかねず、また私は平和主義者であるため、しない。

 この節で語るのは、『Va-11 Hall-A』がいかにサイバーパンク“っぽい”かということである。

①:ハッピーではない感じの近未来社会を描く。(舞台は207X年のグリッチ(欠陥)シティである。ちなみにサイバーパンクTRPGの名作である『シャドウラン』ではグリッチというファンブルが存在する)

②:サイバネティクス(体の一部を機械に置き換える技術)が存在する。

(猫耳赤髪ツインテ片目義眼お嬢様のステラとかいう属性てんこ盛り女)

③:ロボット・アンドロイドが登場し、社会の一部として存在している。

(人型アンドロイド、リリムは『Va-11 Hall-A』の中心的登場人物である)

④:現代の文化が部分的に失われており、独自の文化が存在する。

(登場するカクテルに現実と同様のものは存在しない)

 以上の通り、グリッチシティはサイバーパンク好きには堪らない要素、つまりサイバーパンク“っぽい”モノで構成されている。あるいは、サイバーパンク“っぽい”ものを集めたが故のサイバーパンクなのかもしれない。それはサイバーパンクのエイドスであると同時に、イデアの模倣、イミテーションでもある。私見だが、このイミテーション性は、サイバーパンクを語る上で重要な意味を持つ。

 例えば、④について見れば、提供するカクテルはあらかじめ提供されるレシピが決められているが、現実と同じものはほとんど、あるいは全くない。名前が同じものも、材料は謎の化学物質であり、我々が知るそれとは全く異なる。

 つまり、ジルが提供するカクテルは、現在(作中から見れば過去)に存在する酒の模倣品、偽物ということになる。(最も多く提供する“カクテル”の一つ、“ビール”がそれを象徴している)。

 しかし、サイバーパンク世界においては、イミテーション、つまり偽物が本物としての役割を果たし始める。高度に科学技術が発展した資本主義社会は、「本物」を徹底的に破壊するからだ。「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」のと同様に、限りなく本物に近づいた偽物は、本物と見分けがつかないのである。そうなれば、一体「本物」であることにはなんの価値があるというのだ? ある社会を生きる人々にとっての本物は、常に彼らが日常的に触れるものである。

 それは例えば安価で大量生産される全ての製品であり、人間の身体の一部の代替であり、人間の知性の模倣であり、そして嗜好品である。サイバーパンクは偽物たちの物語なのだ。

 つまり何が言いたいかというとどっかで見た要素ばっかだとしても、それが『Va-11 Hall-A』の良さを損なってはいないという話。

 

資本主義のディストピア・性のユートピア

 資本主義がいかにクソで発達すればするほど人間から人間性を奪うかについては某『共産党宣言』が語る通りである。歯止めをかけなければ、貨幣はいずれあらゆるものを「換金」する。法や、権利や、人の命でさえも。ディストピアにはだいたい三種類あって、ソ連アメリカか、『進撃の巨人』である。グリッチシティは『ニューロマンサー』や『シャドウラン』、もしくは『ニンジャスレイヤー』同様にアメリカ型である。ここで描かれるのは、当然労働者、あるいはそれ未満の者の閉塞感だ。そして労働者といえば、酒場である。

 ところで、酒場はこの世の天国である。少なくともある種の人々にとって。アルコールと閉鎖的空間によって日常から解放され、あることないこと口にできる。主に下ネタ。

 『Va-11 Hall-A』の大きな特徴の一つとして、下ネタの多さがある。これはこのゲームが下品というわけではなく(あるいはこの作品も全人類も下品かのいずれか)、それだけグリッチシティが性に開放的であることを意味する。

 最もそれが顕著なのは同性愛への寛容さだろう。同性愛者が尊重されているわけではない。同性愛者が同性愛者であることに対して、レスポンスが存在しないのである。これは少なくともジルの周囲において、社会的な障壁が存在し得ないことを意味する。まあそんな感じでグリッチシティは政治が腐敗している一方、驚くほど先進的である。性的な意味で。

 

たかが一期一会、されど一期一会

 舞台の話をしすぎなので物語の話をすると、人生割と詰んでいる(「Va-11 Hall-A」は開始時点で閉店予定)バーテンダーのジルは、家賃諸々の支払いを目指しつつ、客の物語に断片的に関わっていく。

中心として展開される物語は大体以下のような感じである。

①:ジルの元カノの話

②:ホワイトナイト(警察みたいななんか)関係の話

③:ドロシーの話

④:その他人物の話

 大体本格的に語られるのは①だけで、後は断片的に語られるに過ぎない。これは自宅と職場を往復するだけの人生をジルが送っており、プレイヤーもそれを追体験するためである。酒の席でバーテンダーに対して、己のすべてを語る人間は存在しないから、これは妥当と言える。

 むしろ全くの他人同士が、バーという空間で接触し、お互いの人生が断片的に見え、時に小さいようで大きい変化が起きる。それがバーの醍醐味であり、『Va-11 Hall-A』の醍醐味なのかもしれない。

 

チラシの裏

 長々書いたが結論を出すととことん雰囲気ゲー。内容がないようだけど酒の席だからまあなくても妥当みたいなゲーム。冒頭でダラダラやれって言ってる通りである。

 バーテンダーアクションらしいがアクション要素は無い。ひたすらレシピ通りに材料を投入するだけである。レシピが最初から大体30種くらいあるがそんなにあるゲーム的な必要が特に無い。というかそもそも酒作るパートが存在する必要がない。無味。ついでに酒作るときはバックログ見れない上に毎日散財してないとジルは即効注文を忘れる。流石にもう少し真面目に働け。サイコパス味すら感じる。

 雰囲気ゲーあるあるとして、匂わせるだけ匂わせておいて回収してない伏線や前作ネタが多い。回収する気ないなと途中で気づくと萎えるタイプなので萎えた。特にアナ。

 人の同性愛を鑑賞する嗜好の持ち主でも人の痴話喧嘩を鑑賞する嗜好の持ち主でもないので、ジルの元カノがうんぬんかんぬんは、ふーん、そっかーとしか思わなかった。おそらく酒の席でなんも喋れない人間がやっていいゲームではない。

 そこそこハードな世界観の割に、一部キャラクターがやけにアニメチック。アラサーで地面に届きそうなほどのツインテールをするジルを見るたびに可愛いとかよりもやべえこの女……という感想が湧いた。スマホのホーム画面といい絶対激重。

 「一日を変え、〜」のやつは英語だと「Time to mix drinks and change lives.」らしい。業務の始まりの標語なので、「人生を変えるカクテルを作る時間ね(仕事の時間ね的な)」みたいな感じが正確な訳だろうか。語呂的には翻訳前、翻訳後共に良い。

 あーだこーだ言いつつVITAのやつで全部のエンディング見た。(途中でスキップに気づいた)だいたい十五時間から二十時間くらいやった感じだった気がする。