Lucas Pope 『Papers, Please』

アルストツカに栄光あれ。

概観

 究極的には、緑色か赤色のボタンを押すだけの簡単なゲームである。しかしこれがなかなか面白い。

 アルストツカという架空の全体主義国家で、主人公は入国審査官となって、規定に沿って入国者の書類を照会し、入国の是非を判断する。

 問題はその規定がほぼ毎日のように追加及び変更されていくことだ。

 『Papers, Please』はそんな理不尽な状況で、家族を養うために、どんどん増える要求に負けず、完璧に正確な入国審査を目指すゲームではない。規則に忠実な入国審査を行うかどうかを選択するゲームである。

 

貴方には命令に従う自由が与えられる

 規則違反には警告と罰金が与えられる。一つでもルールを守っていなければ即座に右下からピンク色の紙が迫り上がってくる。こいつが好きな奴はあまりいないだろう。

 しかし、その一方で、関所を訪れる人々の中には、プレイヤーに規則を守らないことを要求する人々が多く存在する。(だいたいは緑のボタンを押せという)その要求に従った場合の結果は様々だ。感動の再会があれば、人が死んだり、自分が刑務所送りになったり、口汚く罵られたり、人が死んだりする。その逆も然りだ。

 どのみち大体ロクな目に合わないが、そういった他人(あるいは自分も)の人生が決定する瞬間というものを、ハンコ一つで左右してしまうというある種の滑稽さが、『Papers, Please』の根底にはある。

 もちろん、それはそれとして正確な入国審査をしなければ待っているのは家族の全滅以外の何物でもないのだが。

入国を哀願する者にDeniedのハンコを押しつけ、ほぼ完璧な入国審査官を目指すのもまた選択の一つなのである。(ちなみに完全に完璧な入国審査官は残念ながら長生きできない)

 

理不尽を笑え

 アルストツカは全体主義の持つ腐敗と管理の窮屈さに溢れるなんとも息苦しい国であり、主人公も実に理不尽な目に合わされる。アルストツカがディストピアのモチーフを用いているのは明らかだ。

 ところでディストピア物は何が面白いか。それは理不尽であることにあると私は考えている。つまり、ある点で理不尽は滑稽に反転する。過ぎた悲劇は同時に喜劇でもあるとの論を私は展開したい。それはなぜか。真の理不尽の中に人が立たされた時、人は笑うことしかできないからだ。

 理不尽とは何か。道理に背く状況であり、なるようにならない結果である。なぜそうなったか分からない状況で人には何ができるだろう。悲しむのか、それとも怒り狂うのか。しかし、何に?

 理不尽とは因果の否定であるから、その原因を何かに求める事はできない。故に、人は正しく怒る事も悲しむこともできない。対象となる原因が存在しないからだ。しかしただ笑うという行為のみが、理不尽な結果を否定しうるのだ。

つまり、『Papers,Please』は理不尽な目に合わされた挙句酷い終わり方をする故に、笑えるゲームということだ。

 

押してはいけないボタンと、押したいボタン

 人はなぜボタンを押してしまうのか。ボタンを押して何かが起こるか知りたいからである。何かが起こって欲しいからである。何かが起こったら面白いからである。

 何かとはなんでもいい。音が鳴れば、面白い。光を放ってもまた面白い。押すたびに結果が変われば最高だ。

 『Papers, Please』はまたそんな押す喜びに特化したゲームでもある

 とにかくSEがいい。ハンコの棚?を引き出した時の音から、押した時の音、写真を撮る音や通報した時の音など、このゲームには押して楽しいボタンがたくさんある。

 ゲーム自体が単調でありながら、なかなか飽きない秘密がここにあると個人的には考えている。

 個人的には拘束ボタンが一番押してて楽しいボタンだった。ビープ音と人が殴られて連行されるシュール感がいい。

 余談だがスタート場面のBGMもめちゃくちゃ良い。

短い時間でこんなに印象に残るBGMはなかなかない。

 

チラシの裏

以下チラ裏。人にもらった物なのでちゃんと実績全取得してから書こうと思っていたが、一生感想言えなくなる気がしたためこの際書き上げてしまうことにする。

このゲームの最大の欠点はゲームの中で割と集中力のいる書類仕事をさせられるという点だ。仕事を終え戸塚から死ぬ思いで帰ってきて、アルストツカでピンクの紙と戦いながら仕事して、寝て起きたらまた仕事が待っているとかどういう冗談だ?

最初の二周はともかく色々わかりきってる状態でもう一周やらされるのがキツすぎる。

しかも一周がそこそこ長い。

学生時代にやっときゃよかった。

他にもエンディングのカタルシスがなさすぎるみたいな欠点もある。海外ゲーだから当たり前といえば当たり前だが。結構ゲームのプレイに払う時間と集中力が大きい割には、あっさりした終わり。それも味だが。

セーブシステムは天才が考えてる。全ての分岐型ゲームはこのセーブ方法を採用しろ。

モブ顔ばっかの中で唯一異常なほどの個性を発揮するJorjiとかいう漢。奴がいなかったらゲームの理不尽感もっと強くなってた説ある。かなり好きだったので一度も牢屋にぶちこまなかった。(しかし規則違反で通しもしなかった)

確かだいたい三十時間くらいやったはず。EZICの指示に一度も従ってないエンドの実績を解放してないまま放置している。今のセーブデータが最初っから協力してたのでやり直しなのがきつい。多分そのうち精神的に余裕がある時やる。